事件ファイル No.12-17

Rosso 破壊命令

ロッソが行方不明になって10日目の早朝。

【Cielo blu in paradiso】の店舗前に
何か大きな落下音が聞こえてきた。
眠れないから、とホールの掃除をしていた阿佐が
何事かと確認しに行く。
大きく、汚れた麻袋が玄関前に捨てられていた。
奇妙な赤い染みが彼方此方から滲み出ている。

「何だ、これ?」

彼はその袋を開けようと近付いた。
するとその時、背後に誰かの気配を感じる。

「ベルデ?」
「……晋司」
「え?」
「中に晋司が居る!」
「中? え? この麻袋の中にっ?!」

阿佐は慌てて袋を大きく開いた。
其処にはベルデの訴え通り
今迄 様々な拷問を受け、傷付き、
意識を失ったロッソの姿が在った。
尋常では無いその様子に
ベルデは思わず口を押さえる。

= 研斗さん! 助けてっ!! =

咄嗟に彼女は精神感応テレパシーでゲールに助けを求めていた。
直ぐに奥からゲールが姿を現す。

「シーニーが装置の準備をしてる!
 急いで運ぼう!!」

ゲールは麻袋ごとロッソを担ぎ上げると
そのまま急いで地下室へと向かった。

「ベルデも行って! 俺は周辺を確認する」
「でも、危険よ」
「解ってる。戸締りして、直ぐに後を追うから」
「…お願い」

ベルデも地下室へと駆けて行く。
阿佐は自身の言葉通り、深追いはせず
周辺を目視し、異常が無い事を確認すると
素早くシャッターを下ろし、店舗の玄関を施錠した。

* * * * * *

簡易型治療カプセルで眠るロッソの状態をスキャンし
シーニーは思い切り頭を抱えた。

「どう? 甲斐さん。鷹矢、助かる?」
「…済まん。かなりショックやろうけど…
 此処迄行くと、もう…手の施しようが無い……」

地下の治療室にはシーニーの他にベルデとゲールが。
部屋の外の廊下では阿佐、妙子と和司が立っている。

「高須賀。妙子さん達、呼んであげて」
「良いの? ショック、受けると思うよ…」
「ちゃんと説明しておきたいんや」
「…私が呼んでくる」
「志穂ちゃん……」
「聞く権利があると思うんだ。
 妙子さんにも、和司君にも。そして…阿佐も」
「あぁ、そうや。頼めるか、志穂?」
「うん……」

元気無く、ベルデが部屋を後にする。
数分後、彼女に促される様に三人が部屋に入って来た。
カプセルで眠っている様な状態のロッソだが
その悲惨な姿に思わず妙子が絶叫する。

「妙子さんにとっては…二度目、やな……」

心苦しそうにシーニーがそう呟いた。

「皆、揃ったな。…結論から言う」

PCの前から動く事無く、
俯いたままシーニーが言葉を発した。

「身体のダメージが想定される
 限界耐久値を遥かに超えてた。
 特に脳のダメージが顕著に出てる。
 肉体だけならこの治療カプセルで
 或る程度迄なら修復出来るかも知れんが…
 脳の再生だけは不可能や」
「それって…どう云う事なんだ、シーニー?」
「鷹矢は、復活出来ん」
「「?!!」」
「キラーノイズにやられてもうた…。
 脳が保たなかったんや……」
「じゃあ…。じゃあ、晋はこのまま……?」
「このカプセルに居る間なら肉体だけは維持出来る。
 けど、それが限界や……」

妙子はその場で泣き崩れた。
漸く再会出来た大切な幼馴染。
彼の二度目の死は無いと、ずっと信じていたのに。
だが…現実は再度、彼女に永遠の別れを突き付けた。
阿佐が妙子に寄り添い、必死に彼女を励ましている。

「パパ……」

和司はカプセルをそっと抱き締め、泣いていた。
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