事件ファイル No.12-18

Rosso 破壊命令

「済まん、皆。俺の所為や……」

突然、シーニーが詫び出した。

「な、何を言い出すんだ シーニー?」
「甲斐さん、何も悪くないよ! どうしたの?」
「水間を、いや…瀬戸を止められんかった。
 鷹矢の脳に有ったチップを
 その存在を知りながら
 取り除く事も出来んかった。
 全部…俺が悪いんや」
「「……」」

シーニーは突然立ち上がると、
妙子に向かって土下座した。

「申し訳有りませんでした、妙子さん」
「シーニーさん…?」
「こんな事して、許されるなんて思ってへん。
 水間は俺が絶対に殺す。
 鷹矢の仇は、俺が必ずこの手で取る」
「…シーニー、さん……」
「シーニー! 幾ら何でも其処迄……」
「奴は自分が死にたい願望を果たす為だけで
 鷹矢をこんな目に遭わせたんや!
 許せる訳無いやろっ!
 『死にたい』って言うんなら、
 望み通り、俺が殺したるわいっ!!」

ベルデは唯一人、静かに皆の様子を見つめていた。
一言も発する事無く。

「志穂ちゃん?」

心配そうに声を掛けるゲールに対し
ベルデは悲し気な笑みを浮かべている。

「一番辛いのは、志穂ちゃん…だよね」

ゲールの発した一言に、
その場に居た全員がハッとして一斉にベルデを見た。
彼女は涙を流す事無く
静かにカプセル内のロッソを見つめている。

「…そうよね。私も、そう思うの」
「志穂…?」
「志穂ちゃん…?」
「晋司は、まだ諦めてない」
「えっ?
 志穂ちゃん、晋の声が聞こえるの?」
「えぇ、妙子さん。ちゃんと聞こえるよ」
「でも…シーニーさんの話では、もう脳が……」
「まさか…G-Cell?」
「私なら、彼を復活させる事が出来る」

静かに目を閉じ、ベルデがそう呟いた。
彼女の言葉が何を意味しているのかを知るシーニーは
慌ててベルデの腕を掴んだ。

「甲斐さん…」
「覚醒、しとったんか…?
 いつから……?」
「目覚めた時には、既に…」
「その事、鷹矢は…」
「うん。知ってた。
 だから…私に全てを教えてくれたの。
 私がこの能力を使いこなせる様にって」
「そう、やったんか……」
「御免ね、皆。
 私がもう、『人間じゃない』事を隠していて…」

そう言ってベルデがゆっくりと目を開けた。
鮮やかな紫色の瞳。
彼女の首に在った筈の瞳は既に消えている。

「審判の女神の継承…。
 もう、済んどったんやな……」

シーニーが力無く、その場にへたり込む。
誰よりも守りたかった少女は、
既に手の届かない存在となっていた。
その事実に打ちのめされていた。

「鷹矢のG-Cellが、志穂ちゃんに話し掛けてるの?」
「…研斗さん。本当はね。
 この世界にG-Cellなんて物質は存在しないの」
「え? どう云う事? GvDはG-Cellを探してるんだよね?」
「えぇ。存在しない物質を探して、それを独り占めしたくて
 彼等は誤った知識で多くの人々を死に追いやった」
「そんな……」
「全ては、彼等の開発したスーパーコンピュータの演算ミス。
 ほんの些細な間違いが、多くの人の人生を狂わせた」

ベルデの背中には真っ白な羽根と真っ黒な羽根が出現していた。
神々しいその姿に
その場に居た者は全員、ベルデをじっと見つめていた。
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