事件ファイル No.12-20

Rosso 破壊命令

「ベルデ……」
「志穂……」
「水間 次郎は…
 いえ、瀬戸 亮兵は生きて償わなければいけない。
 罪から逃げる事は許されない」

ベルデはそう言ってロッソに微笑んだ。

「そうよね、晋司?」

やがてカプセルが自動的に開く。
PC操作していない筈の動作に
シーニーがギョッとしてディスプレイを見るが
エラーコードは一切出現していない。
生命維持装置はオールグリーンで起動したままだ。

「嬉しかった。貴方がそう言ってくれた事。
 同じ場所に立って、同じ視点で物を見て
 同じ音を聞いて、同じ物を感じたいって」

= 愛してるよ…。ずっと…… =

「私も、貴方を愛してる。
 産まれて来てくれてありがとう、晋司」

淡い緑色の保存液を全身に浴びながら
ベルデは優しくロッソを抱き締めると
そのままそっと唇にキスをした。
彼女の口の左側から赤い細い線が流れ落ちる。

「ベルデっ?!」
「恐らくは自分の舌噛み切って
 血を鷹矢に与えとるんや」
「志穂ちゃんの左側、再生の力が有るって」
「しかし……」

やがてロッソの喉が音を立て出した。
ベルデの血を文字通り飲んでいる。
遠目からでも、それがよく理解出来た。

「…見て」

焼け爛れた両手両足の部分は
生身の部位を護る為に、
治療カプセルにロッソを入れる前
ベルデが己の手で切断していた。
綺麗に切断された部分から
失った筈の彼の四肢が
淡い光に包まれて再生されている。
文字通り『生えて』きていた。
全身の傷も、同様に少しずつ薄らいでいく。

「本当に、復活してる…」
「再生なんてもんやない。
 肉体そのものの再構築なんざ、
 今の人間の知識でも技術でも不可能や…」
「これが…神の奇跡……」
「志穂ちゃん、凄いや……」
「パパ……」

やがて、光が完全に収まると
カプセルからゆっくりと
裸体の男が和司に近付いて来る。
和司は真っ直ぐにその男を見ていた。
初めて見る、自分の父親の姿。

「和司…」
「パパ…? パパ、なの…?」
「そうだよ、和司。
 会いたかった。
 ずっと、そう名乗りたかった」
「パパ…っ!!」
「和司っ!!」

ロッソは膝をつき、
自分の胸に飛び込んできた愛する息子を
優しく、力強く抱き締めた。

「パパ…。パパ……」
「和司、今迄ママを守って来てくれてありがとうな。
 産まれて来てくれて、
 俺の息子としてこの世に現れてくれて…
 本当に、ありがとう……」
「パパ…」
「愛してるよ、和司。
 お前は俺の大切な、大切な宝物だ…」

父親から息子へ。
漸く伝える事が出来た言葉。
妙子は涙を抑えられなかった。

「ありがとう、志穂ちゃん……」

彼女の感謝の言葉に
ベルデはいつもの笑顔で答えていた。
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