小学校からの帰り道で行方を晦ました。
その後、何の情報も集まる事は無く
やがて彼の戸籍は失踪宣告成立後、消滅した。
戸籍上は死んだとされる阿倍だったが
行方不明から10年後
瀬戸 亮兵として、第二の人生を歩んでいた。
「公安で俺と知り合ったのはその頃、か」
「瀬戸として生きて来たのは中学からだ」
「成程。行方不明の間に別人として生きてきた、と。
しかしそんな事、幼い子供一人で
考えられるとは思えんなぁ…」
「……」
「お前を攫ったんは…GvDって事なんやな」
「当時は、まだその様な名称では無かったが…
確かに…そう云う事にはなるか」
「そんな大昔から他人の生き様を面白半分で
弄ってきよった訳や。奴等は」
「……」
「クソ共が…っ」
怒りの感情を隠そうともせずに
シーニーが短くそう言い放った。
彼の激高を直視出来ず
水間は視線を自身の珈琲へと移した。
「阿佐は水間の事、何処まで知ってるの?」
【Cielo blu in paradiso】のホールで
ベルデが声を掛けて来た。
「あの人は秘密主義だったし
上司でもあったからね。
正直言うと、プライベートの事は
何も知らないんだよ」
「そっかぁ~」
「頼り無くて御免な。本当に…」
「そりゃ無理もねぇだろ」
「ロッソ…」
厨房で作業をしながら
ロッソが会話に参加してきた。
「奴が口を開くって事は
組織にとっても都合が悪い事だ。
況してやお前をスパイとして潜り込ませる以上
不必要な情報は与えたがらんだろう」
「それは確かにそうなんだが…」
「怖かったのもあるかも」
今度はゲールが会話に加わってきた。
「怖かった?」
「阿佐に嫌われるの。水間は恐れてたかも」
「そうかなぁ~?」
「高須賀さんの言う事、あり得るかも。
ね、晋司」
「…甲斐の発言、か」
「えぇ。『瀬戸は寂しがり屋』」
「一人で居る事に対し、異様に怯えてた…。
成程なぁ…。確かに、それは言えるかも」
「そう考えると、今の水間の状態は
余り良いとは言えないのよね」
「此方側に寝返ってくれないかしらね?」
「はぁ~? 妙子、それマジで言ってんのか?」
「生憎、私は貴方達とGvDの間柄をよく知らないから。
只 阿佐君の事を考えても
その水間さんが敵対してるのは
余り好ましくないと思って」
「阿佐の為…ねぇ~?」
「何よ、晋。もしかして…ヤキモチ?」
「違うわいっ!!」
妙子の言葉にムキになり反応するロッソに
その場の全員が大笑いした。