事件ファイル No.12-4

Rosso 破壊命令

「俺はもう、お前の知る瀬戸ではない」

そう言って水間は自身の左腕を掴むと
それを他の人間に見られない様に前へと引き抜いた。

「?! お前…っ」
「そうだ。人形ひとがたの腕を移植してある。
 そしてこれが俺の正式な生体認証番号。
 【Schneckeシュネッケ型 SSダブルエス Kreuzクロイツ】」

水間がシーニーに見せたのは
クラブの箔押しが施された【殺人許可証】だった。

「お前…NUMBERINGやったんか?」
「そうだ…。俺は言わば【プロトタイプ】。
 そして志穂の存在に接する者を処刑するのが
 俺の任務だった……」
「そんな……」
「俺がこの手で抹殺したのは高須賀 研斗。
 そして、殺人計画を伝授して
 ならず者共に殺害を促したのは…」
「……鷹矢、晋司…か」
「…そうだ」
「!!」

感極まり、シーニーはテーブルを叩いて立ち上がった。
周囲の客や店員が驚いて二人を見る。

「場所を変えよう。
 此処では目立ち過ぎる」
「…そうやな。
 俺も冷静になれん様になってきた…」
「それじゃ、此処を出るか」

殺気を抑える事もしないシーニーに対し
水間は静かにそう提案した。

* * * * * *

誰も居ない空き地で
シーニーと水間、二人の話は継続していた。

「お前は『志穂に近付く者の殺害』を
 生業としとったって事やな」
「そうだ。そう指示されている」
「じゃあ、何故俺を生かしておいた?」
「……」
「当然、俺もターゲットに入ってたんやろ?」
「…入って、いた」
「じゃあ、何でや?」
「それは……」
「瀬戸っ!!」
「お前だけは…死なせたく、なかった……」
「……っ」

水間の目から大粒の涙が零れ落ちる。
彼は泣いていた。
声を荒げていたシーニーだったが
水間の涙を見た瞬間
言葉を失ってしまった。

「殺したくなかった…。
 暗殺命令を無視して
 何とかお前の興味を
 志穂から逸らしたかった…。
 志穂にさえ、近付かなければ…
 お前を死なせずに済むと思った……」
「瀬戸……」
「だが、お前はその生命を捨ててまで
 GvDに抗い続けた。
 いや、死んだ後になってもだ。
 何故だ? 死んでしまったら意味が無いのに…」
「…ホンマに意味が無いと思っとるんか?」
「…?」
「だとしたら、まだまだ勉強が足りんな」

その鋭い眼光は甲斐時代の頃と遜色ない。

「誰もが志穂の事を忘れてしまえばぇと?
 彼女は、何の為にこの世に生まれてきたんや?」
「…そんな事、考えた事が無い」
「やろうな。お前ならそうやと思うわ。
 そうやけどな」

シーニーは更に視線の力を強めた。

「【俺等】は違う」
「…それは、鷹矢や高須賀もか」
「そうや。諦めの悪い男共や」
「鷹矢も言ってたな。
 『志穂だから』だと。
 俺には理解出来ん…」
「【理解】なんて単語使ってる内は無理やな」

シーニーは一息吐くべく
懐から愛用の煙草を取り出して咥えた。
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