事件ファイル No.12-5

Rosso 破壊命令

「もう一つだけ、お前に聞きたい事が有んねん」

シーニーは驚く程静かにそう言った。
水間も無言で彼を見つめている。

「お前…随分と鷹矢にご執着の様やな」
「!!」
「何か理由でも有るんか?」
「…H-S-Kは、失敗作だ。
 だから、消去するのみ」
「それはホンマにお前の意思か?
 それとも…」
「俺の……意志、だ」
「……ほぅ」
「奴が全ての歯車を狂わせた。
 奴さえこの世に存在しなければ…
 計画は順調に進んでいた筈だったのに……」
「なら、俺等としては
 鷹矢を…ロッソを喪う訳にはイカンな」
「甲斐…?」
「俺の『読み』通りやわ。
 GvDにとって、ロッソが【キーマン】やったと」

シーニーはそう言ってニヤリと笑った。
水間にはその笑みが何を意味しているのか理解出来ない。

「お前はどうするつもりや、瀬戸?
 GvDと共に俺等と戦うつもりか?」
「それは此方の台詞だ。
 甲斐。GvDには何者も敵わない。
 志穂の身柄を此方に渡せ」
「断る。志穂はもう、俺等の大切な【家族】や」
「志穂はこの世界を正常に戻す存在だ。
 GvDはこの惑星ほしの為に……」
「詭弁やな、それは」
「甲斐っ!!」
「お前もホンマは解ってるんやろ、瀬戸?
 奴等の真の狙いを」
「……」
「それがお前の『ホンマの願い』と
 一致してるってのが厄介やけど」
「其処迄解っているなら…
 俺の願いを叶えてくれ」
「瀬戸……」
「頼む…甲斐。
 お前にしか、頼めない事なんだ…」
「…それについては、もう少し考えとく」
「甲斐っ!!」
「即答出来る訳あらへんやろ?
 お前、俺が同じ事聞いて即答出来るんか?」
「それは……」
「自分に出来ん事を安易に他人ひとに求めんな。
 昔、そう教えたやろうが」

シーニーは敢えて、【昔】にアクセントを置いた。
それが奇しくも水間に対する回答になっていた。

「…【期待】してるよ、シーニー」
「……」

そう言って笑う男の顔は
瀬戸から水間へと戻っていた。
シーニーも又、この瞬間に
彼との決別を感じ取っていた。

双方共に折れる事は無い。
己の信念を抱いて戦うのみ。
未来は変えられない。
絶望感が心に広がっていく。

遠く去っていく水間の背中を見送りながら
シーニーは深い溜息を吐いていた。

「…なら、俺の手で葬ったるしかない。
 それがせめてもの……」

両手の拳に力を籠め歯を食い縛り
シーニーは感情を押し殺そうと試みる。
だが、荒れ狂う波の如く
その心が穏やかに凪ぐ事は無かった。
Home INDEX ←Back Next→