尤もGvDが明確な動きを示した事等
今迄 只の一度も無かった訳だが。
あの日。
意気消沈して帰って来たシーニーの様子から
水間との決別を阿佐は一人痛感していた。
嘗ての相棒であるシーニーの言葉でさえ
彼は聞き入れなかったのだろう。
「水間さんは…一体どうしたいんだ?
あの人は、何を望んでいるんだ?」
それを知ってどうにか出来る訳では無い事位
阿佐にだって解っている筈だった。
それでも、出来れば彼とは敵対したくない。
「例えこの感情が『愚かなもの』だったとしても…
俺は最後迄、諦めたくないんだ……」
歯を食い縛り、阿佐は込み上げてくる負の感情を
懸命に押し殺そうと藻掻いていた。
「…報告は以上です」
水間は一人、スマートフォンで誰かと会話をしていた。
その表情は氷の様に冷たい。
『いつもご苦労様。
甲斐は此方に靡いてくれなかったか』
「申し訳有りません。
昔話でも出せば、此方に傾くかと思いましたが…」
『情報通り、頭の固い男の様だ。
だが…それでこそ、行動も読めると云うもの』
通話の向こう側でカタカタと機械が動く音がする。
『未来を導き出す我等の【神】の啓示通りに
全ては動かなければならない』
「御意に」
『大御所もその様に仰っている』
水間の眉が一瞬だがピクリと動いた。
『新しい世界の創造を』
自身の言葉に酔いしれる様に。
声はそう言って通話を終了した。
最近外出しがちなシーニーの代わりに
ベルデが彼の部屋に入り浸っている。
彼の所有するPCを操作し
何かを懸命に探している様子だ。
「何を探してるの?」
「探してるんじゃなくって…
様子を伺ってるの」
「何の?」
「今、シーニーは
日本支部の動きだけに気を取られてるから…
海外に潜むGvDの動きを、ね」
「へぇ~!」
「自分が出来る事で皆のお手伝いがしたいの」
「凄いなぁ…」
「そんな事無いよ」
ベルデはそう言って笑っている。
ゲールは先程から感心し切りだ。
「高須賀さん。
少し、手伝ってもらえるかな?」
「良いよ。それとね」
「えっ?」
「【研斗】って呼んで良いよ」
「研斗…さん?」
「そう」
「じゃあ、私の事も【志穂】って呼んでね」
「志穂ちゃん」
「嬉しい! 何か、漸く私達 【家族】に成れたね」
本当に嬉しそうにベルデは笑顔を浮かべている。
彼女の言う通り、漸く自分達は
自分達の望み通りの関係に成れたのだろう。
もう寂しくない。
そう思うだけで、ゲールは胸が温かくなった。