事件ファイル No.12-8

Rosso 破壊命令

「…皆、今から言う話。
 それなりに『覚悟して』聞いてくれ」

シーニーの発言に全員が驚きの声を上げた。

「…どう云う、意味?」
「シーニーさん…?」
「シーニー……」
「…甲斐」
「鷹矢が埋め込まれたチップは
 通称『キラーノイズチップ』と呼ばれる類の物。
 その可能性が一番高い」
「キラー、ノイズ?」
「俺も概要を一度目にしただけやけどな。
 資料上、実用出来る様な代物やないし
 その時はそんなに気にも留めんかった。
 しかし、鷹矢に使われてるとなると
 話は変わってくる」

そう言って、シーニーは
【キラーノイズチップ】の事を
彼等に解り易い様に説明した。
遠隔操作で埋め込まれた人物の行動を
トレースするだけでなく、
脳に一定の周波数を送り込む事で衰弱させ
やがては死に至らしめる効果があると云う。
NUMBERINGであるロッソの場合、
肉体が朽ちる事は無くても
脳が破壊され、最悪 廃人と化す可能性が高い。

「恐らく今、彼奴アイツは此方に対して
 何も発信出来ない状態や。
 声一つでも上げれれば
 必ず志穂がキャッチ出来る筈やからな」
「じゃあ、志穂ちゃんの【耳】を
 妨害している音が…」
「高須賀の言う通りや。
 それが【キラーノイズ】の正体。
 特化した志穂の【耳】には
 流石に効果が無かった様やけど」
「許せない! 何で、鷹矢がこんな目に…っ」

激高するゲールと彼を宥める阿佐。
妙子は突然の事に頭が付いていかないのか
顔面蒼白のまま力無く椅子に腰掛けた。

「ママ……」

和司が心配そうに妙子にしがみ付く。
妙子も震える腕で我が子を抱き締めていた。

「ノイズそのものの発信源を追う事は?」
「まぁ…不可能ではないかも知れん。
 鷹矢の居場所を見付ける為『だけ』やったらな」
「じゃあ……」
「生憎、そんな離れ業を使えるのは志穂だけや。
 それと、一瞬とはいえ
 キラーノイズを自身に取り込むんやから
 影響を受ける可能性も大きいわな」
「…却ってベルデが危険になるのか」
「少なくとも鷹矢なら反対すると思うで。
 自分を助ける為に志穂を危険に晒す行為は」

シーニーは、ベルデが何と言おうと
この手段を取る気は無いとハッキリ態度に示した。

「じゃあ、打つ手無しって事かよ……」

落胆する阿佐の発言に誰も答えられない。
長い沈黙が続くのみ。

「パパ……」

震える声で和司がそう呟き、泣き出した。
和司には、ロッソが父親である事を
此処に居る者は誰も告げていない。
勿論、その中には今此処に居ない
ロッソ本人も含まれている。
しかし和司は間違い無く
ロッソを自分の父親だと認識していた。
驚く一同の中、ベルデだけは優しく微笑むと
和司の目線に合わせてしゃがんだ。

「呼び掛けよう、パパに」
「しほちゃん?」
「パパ、帰って来て!って。
 一緒に呼び掛けよう」
「志穂。お前、それは……」
「危険なのは百も承知。
 だけど、私なら出来るんでしょ?
 何処迄探知出来るかは判らないけど…
 やる価値はあると思うの」
「……」

ベルデの目に迷いの色は全く存在しない。
シーニーは静かに首を横に振っていたが
無言で彼女の両肩に手を置くとフッと微笑んだ。

「協力する」
「甲斐さん?」
「脳波操作なら俺の得意分野や。
 二人で力を合わせれば、何とかなるかも知れん」
「…うん!」
「高須賀」
「何?」
「俺等がぶっ倒れたら…介抱は頼んだ」

シーニーはそう言って悪戯っぽく笑った。
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