事件ファイル No.13-11

宣戦布告

塔の内部は、一言で表すならば【異様】だった。
辺り一面が漆黒の闇に覆われ、何も存在しない。
正に【無】の空間。

『本当に、こんな所に瀬戸が…?』

ロッソがそう訝しんでも可笑しい事ではない。
それ位、此処には何も存在を感じなかった。

「……」

慎重に一歩、又 一歩と歩を進めていく。
暗視に慣れた自慢の目にすら何も映らない。
こんな世界が存在する【異様】さ。

「ん?」

違和感は足元に在った。
吸い込まれる様に重心が下へと落ちる。

『落下?』

床が抜けた感触すら無かった。
穴が開いていた気配も、同じく無かった。

『まぁ、良いさ』

ロッソは落下に身を任せながら
逆に冷静さを取り戻していた。

『深みに落ちなきゃ
 手の内を見せねぇってんなら…
 此方から飛び込んでやるよ』

全く何も見えない闇の中でありながらも
彼は己の勘を信じて身体操作を行い
無事に着地に成功した。

「…気配がする」

このエリアからは確かに誰かの気配を感じた。
ロッソは気配の方向へと再度歩き出す。

「……瀬戸」

思った通りだった。
何かの柱に磔にされた状態の水間が
其処に存在していた。
幻ではない。

「酷ぇな。仕置きにしてもこりゃ無いぜ。
 俺なら発狂してるっての」

ブツブツと文句を言いながらも
ロッソは当たり前の様に柱へと近付く。

「…来るな」
「お前、起きてたのかよ?
 怪我は? 弱ってるが、外傷は無さそうだな」
「来るな…。お前は、来ちゃ駄目だ……」
「何で? 『本来は』俺が其処に居る筈だから?」
「鷹矢……」
「瀬戸。お前は俺と同じだって言ってたよな?
 私生児として生まれ育ち、親からも存在を否定され
 だからこそ、産まれてくるべきでは無かった…と」
「……」
「そのクソみたいな言い分。
 俺が真っ向から否定してやるよ」

そう言うと、ロッソは素手で
柱の鎖を引き千切っていった。
人間にはあり得ない怪力ながら
ロッソには力んでいる様子が全く無い。

「覚醒、したのか…」
「しなきゃ復活出来んだろ。
 お前が俺の体、滅茶苦茶にしたんだろうが」
「何故、復活を望む…?」
「はぁ? やっぱ莫迦だろ、お前」

呆れ果てた声を上げるもロッソの目は優しい。
以前とは まるで違う印象を受ける。

「お前にだって居るだろ?
 『逢いたい人』が」
「逢いたい、人……」
「その人ともう一度会う迄は死ねないんだよ」

ロッソの場合、それが誰なのかは言わずとも解る。
ベルデの為だけに生き、戦うと誓った男。
その誓いは今も尚、止まる事無く続いている。
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