事件ファイル No.13-12

宣戦布告

「瀬戸。素直になって良いんだ」

ロッソはそう言って、優しく水間の頬を撫でると
優しい微笑みを浮かべていた。

「ずっと逢いたかったんだろ?
 もう一度、ちゃんと話をしたかったんだろ?
 …甲斐と、さ」
「鷹矢……」
「この塔の外で待ってる。
 甲斐も、志穂も、高須賀も
 そして…阿佐も、な」
「高須賀…。阿佐……」

上からの命令とはいえ
自らが生命を奪った存在。
そして、騙し 利用してきた存在。
水間は良心の呵責に苛まれ、下を向いた。

「お前の【償い】は、生き残る事だ」

強い口調でロッソはそう言い切った。

「鷹矢?」
「【死】を逃げ道に使う事は許されない。
 それが、志穂の下した結論だ」
「志穂が…俺を……?」
「そうだ。志穂はお前の生存を願った。
 生きて、罪を償う事をな」
「志穂が……」
「漸く解っただろ?
 志穂と云う女が、どれだけ凄いかって」

そう言ってロッソは笑っている。

「志穂は己の過酷な運命でさえも乗り越えた。
 だから俺は、ずっと彼女を守り続ける。
 志穂がこれからも自由に飛べる様に」
「……」
「それが、彼女の問い掛けに対する俺の答えだ」
「鷹矢…。お前は……」
「俺達は自分の生き様を自分で選んだんだ」
「……」
「志穂からお前へのメッセージだ。
 『今度は貴方の番』だとよ」

ロッソは胸ポケットから何かを取り出すと
解放された水間の首にそっと掛けた。
それは、出陣前に妙子から託された
アクアマリンのペンダントだった。

「これは…?」
「阿佐の【彼女】から預かった」
「……」

一瞬見せたロッソの悲し気な微笑みに
水間はそれが誰なのか理解出来たらしい。
震える右手でロッソの左頬に触れると
ぎこちなくも優しく撫でている。

「…気遣ってくれてんの?」
「そんなつもりは無いけど」
「ありがとな」
「鷹矢…」
「正直言うとさ。
 まだ失恋のショックから抜け切ってねぇんだよ」
「志穂はその事…」
「勘付いてるとは思うけど。
 でも、俺の口からは言いたくねぇ。
 未練がましいのは俺らしくないし」
「誰かを好きになる事は…悪い事じゃない」
「瀬戸……」
「羨ましかった。そう云う感情…」
「これから出会えば良いんじゃねぇの?
 しくは……」

ロッソは暫く視線を上に上げて
何かを考えている様だった。

「今の【想い】を、大切にしても良い訳だし。
 『愛する』ってのは、
 別に異性に限った事じゃねぇだろ?」
「鷹矢?」
「甲斐もその辺は理解出来てると思うけどな」

そう言ってロッソは意味深に笑っていた。
釣られて、水間も笑っている。
今迄見せた事の無い、心からの笑みだった。
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