事件ファイル No.13-13

宣戦布告

同じ頃。

ベルデとシーニーがゲール、阿佐と合流した。
あれだけ居た人形ひとがたも全て蹴散らし
シーニーが冷静に塔を見つめている。

「シーニー。あの塔……」
「あぁ。建造物やなかったな」
「え? どう云う事だ、シーニー?」
「息吹を感じるの」
「ありゃ生命体や」
「ロッソ、中に入ったけど…大丈夫かな?」
「大丈夫やろ。あんなん不味くて食えんわ」
「酷い言い草ね、甲斐さん」
「アレを食えるのは志穂だけやって」
「それは言えてる」
「研斗さんまで…」

シーニーはそう言って笑っている。
ベルデやゲールを見ても
心配している様子ではない。

「そうか。あんなけったいモン
 せっせと作り上げとったのか…」
「やっぱり、今のタイミングで正解だったのね」
「そう云う事や。
 真神女史の研究も悪用しての事やろうし
 彼女の名誉の為にも、此処で潰しとかんとな」
「ん? 風の匂いが変わった!」

ゲールが何か変化を感じ取ったらしい。
入口付近を指差してそう叫ぶ。

「出て来るよ、二人が!」

ゲールの言葉の直後、
懸命に此方に向かって駆けて来る
ロッソと水間の姿を彼等は捉えた。
その背後に迫り来る触手が
まるで舌の様に怪しくうごめいている。
阿佐が声を上げる直前、
誰よりも速くベルデが飛んだ。

「援護やっ!!」

シーニーの声に導かれ
阿佐は彼と共に連射で触手を牽制する。

「晋司! 瀬戸さん!!」
「志穂! 瀬戸を頼むっ!!」
「解ったわ!!」

ベルデは迷わず水間の左腕を掴むと
そのまま触手を交わして空中へと回避した。

「俺は此処だ! 来るなら来やがれ!!」

一人その場に残ったロッソが挑発する。
その相手は触手などではない。
彼が感じ取っていた気配の主。

「俺をこの塔の中へ
 立ち入れさせたのは大失敗だったな!
 お陰さんで、お前の企みとやらが
 ハッキリと判ったよ!!」

ロッソの目が一層険しくなる。
怒り、悲しみ、怨み、軽蔑、憎悪。
複雑な感情が入り乱れている。

「【お前】はいつもそうだ!
 偉大な祖父の影に隠れ、
 破天荒にも振舞い切れず!
 かと言って実直な父親の様に
 職務に真剣にもなれなかった。
 どちらも始末してからはどうだ?
 【お前】の願いは叶ったのかっ?!」

とどめとばかりにロッソが言い放った。

「なぁ、【渡邊 純一】っ!!」
「えっ?! 渡邊 純一は既に死んだ筈?」
「…確かに、誰も奴の
 【死亡届】迄は確認してへんかった…。
 あの事件は報道にも乗らんかったから」
「シーニー?」
「自分そっくりな人形ひとがたを利用して
 生き延びとったって訳やな……」

苦虫を潰した様に顔を顰めて
吐き捨てる様にシーニーが低く唸る。

「まんまと裏をかかれた訳かい。
 あんな青二才に
 この俺とした事が……っ」
「甲斐さん……」
「シーニー……」
「でも、晋司を誤魔化す事は出来なかった。
 それが【答え】よ」

上空から天女の様に舞い降りたベルデが
そう言って優しく微笑んだ。
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