事件ファイル No.13-18

宣戦布告

「既に肉体を失った貴方にとって
 この塔が燃え尽きる事は
 【死】に値しない。
 魂が消え去らない限り
 貴方が『死ぬ事は無い』の」

ベルデの今の言葉で
シーニーやロッソの考えが正解だったと判明した。

「彼女らしくない、残酷な刑の執行や」
「それって、やっぱり鷹矢の事を想って?」
「そうやろうな。
 鷹矢と妙子さん、そして和司の為に」
「志穂……」
「これが、志穂の【答え】か」

シーニーはそう言ってフッと笑みを浮かべた。

「なかなかに重たい愛情やなぁ。
 覚悟は出来とるんやろうね、晋ちゃん?」
「来るなら来やがれ。
 全力で受け止めてやるよ」
「大丈夫だよ、甲斐さん。
 鷹矢の愛も、かなり重そう」
「そやな。似た者同士、きっと巧くいくわ」
「五月蠅ぇぞ、二人共」

三人の表情に笑みが浮かんでいる。

渡邊 純一の魂は
永遠にこの裁きの業火に焼かれ続ける。
二度と解放されない灼熱地獄の中
転生を許される事も無い。

それが、彼の犯した罪に対する
ベルデの裁きだった。

ベルデの頬に涙が落ちる。
例え渡邊 純一を裁いても
彼に因って奪われた生命は戻らない。
彼の所為で人生を狂わされた人達は
修正出来ぬまま生きていくしかない。

『それでも……』

人類を守りたい。
その為に、彼女は戦うと誓った。
最愛の仲間達と共に。

『私は……』

「志穂」

炎の勢いを諸共せず
灼熱の空間に飛び込んで来たのは
退避を指示された筈のロッソだった。

「晋司…」
「お疲れ様」
「晋司も、お疲れ様」
「あぁ。終わったな」

彼はそう言って手を差し出した。
ベルデは軽く頷くと
優しくその手を握り返す。

「俺達は又帰って来るさ。
 この地へ」
「…えぇ。そうね」
「じゃあ、行こう」

涙を拭い、笑みを浮かべると
ベルデはロッソの左腕に確りと抱きついた。

* * * * * *

あれだけ勢いのあった炎の柱も
数時間経過すると
嘘の様に独りでに鎮火した。

其処には何も存在していなかった。
塔だった生命体は消し炭一つ残っておらず
先程迄の地獄絵図が嘘の様だ。

「ベルデ?」

俺は彼等を探し続けていた。
彼等だけは無事の筈。
そう思っていたが、
炎が鎮火した後 其処に彼等の姿も無かった。
共に燃えた訳でも無い。
だが、本当に痕跡は何も無かった。
間違い無く、彼等は其処に居た筈なのに。

「ロッソ! ベルデ! シーニー! ゲールッ!!」

俺の声だけが、湾岸の埋め立て地で
虚しく響き渡るだけだった。

「皆…何処に行っちまったんだよ……?」

地面に跪き、くずおれる俺に対し
瀬戸さんが優しく肩を叩いてくれた。

「瀬戸さん…?」
「GvDは世界中でその魔の手を伸ばしている」
「じゃあ、彼等は……」
「【Memento Mori】に休息は無い。
 彼等には新たな戦場が待っている」
「新たな、戦場……」
「世界中の人々が彼等を待っている」
「……」

だからベルデは言ってくれたんだな。

『後はお願いね』

【仲間】と認めてくれたからこそ。

「それが、彼等の願い。
 俺達が引き継いだんだ。
 この場所を、大切な人々を護る役目…」
「お前は一人じゃない。阿佐」
「瀬戸さん……」
「共に戦おう。大切な存在の為に」
「…はい!」

そうだ。
此処からは俺達の戦い。
俺達が、守る世界なんだ。
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