事件ファイル No.13-2

宣戦布告

「だからって…普通、3Pを提案するかいな……」

溜息を吐きながらゲールの報告を聞くシーニー。
彼は珍しくゲールの部屋に赴き、
其処で彼と話をしていた。
ゲールのベッドには和司が安心して眠っている。

「4Pじゃなくて良かったんじゃない?」
「そう云う問題やない…」
「でもさ。これって志穂ちゃんなりの優しさだよ」
「どこが~?」
「だってさ。鷹矢、一人だったら
 妙子さんを巧く誘えないもん」
「…まぁなぁ。今更で照れもあるやろうし」
「だから志穂ちゃんが居てくれて良かったんだよ」

ゲールの一言にシーニーは苦笑を浮かべた。
やれやれと小さく呟くと彼はベッドの近付き、
眠っている和司を優しい眼差しで見つめる。

「二人の父親…、か。
 悪ぅないな、そう云うのも」
「そうだね。そして、二人の母親」
「母親は一人やろ?
 流石に志穂が母親は、まだ早よない?」
「今の志穂ちゃんなら…皆の母親でも大丈夫!」
「しぃーーーっ!」

和司が起きてしまわない様に。
シーニーは口に指を当てて
ゲールに声を抑えるよう促した。

* * * * * *

夢を見ているかの様だった。
こんな風に、抱かれるなんて思ってもみなかった。
とても優しくて、紳士的で。
子供の頃、憧れていたお姫様の様に
大切に、丁寧に接してくれて…。
嬉しかった。凄く、凄く…。

昔は、私から半ば無理矢理関係を迫った。
志穂ちゃんに対する嫉妬もあった。
それ以上に、私を見てくれない
彼の態度に腹を立てていた。
自ら不幸に突き進む彼の生き方を
私は頭から否定していた。
認めようともしなかった。

『…疲れた。もう、こう云うの……』

彼が私の求めに応じてくれた時。
それは私を愛してくれているからではなく
煩わしさからそう選択したのだと思い
言葉に出来ない寂しさを感じていた。

和司の妊娠は、彼が死んで暫くしてから判った。
誰も訪れない小さなお墓。
私は、彼に妊娠した事と出産する事を報告した。
もし、彼が生きていたら…
産む事を許してくれたんだろうか。
共に和司を育ててくれたのだろうか。
時々、昔を思い出してはそんな事を考えてしまう。
答えは、解っている筈なのに。

彼が私を遠ざけていた本当の理由を知り
私はその時に初めて、
彼に物凄く愛されている事を知った。
彼は…自分の生命が狙われている事を
ずっと前から気付いていた。
だから…最も近くに居る私を遠ざけ、
態と無関係を装う事で
敵の矛先を私から自分へと向けさせていたのだ。

彼は一度、完全な死を迎えた。
死を超えた先で蘇ったとしても…
社会は彼の存在を認めないだろう。
死ぬ事も老いる事も無くなった彼は…
私と共に同じ時間を歩めないと謝罪した。
彼の所為じゃないのに。
彼は、被害者なのに。

彼は彼の。
私は私の。
それぞれのパートナーを見付け、
幸せを掴むしかないのだと云う事実。

晋…。ありがとう。
最後の最後迄、私の我儘を聞いてくれて。

これで漸く、私は貴方から【卒業】出来る。
貴方への想いに、区切りを付けられる。
私は、私と同じ歩幅で歩く人と共に
これからの未来を生きていくわ。
だから貴方も、貴方と同じ時間を共有出来る…
志穂ちゃんと、幸せを掴んでね。
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