事件ファイル No.13-4

宣戦布告

状況が一変したのは、
季節が夏から秋へと移行する頃だった。
何気無くつけていたTV画面から
突如けたたましい警報アラームが鳴り響く。

「何? 速報?」

ベルデはホールでその画面に目をやった。
釣られる様にゲールと阿佐もそれに倣う。

「弾道ミサイルが発射されたっ?!」
「どう云う事、阿佐?」
「俺も解らない。只、このニュースだけでは…」
「…店、早めに閉めるぞ」
「晋……」

異常を察知し、厨房からロッソが姿を現す。
最後の客を失礼の無い様に送り出すと
彼は素早く店を施錠した。

「甲斐、準備出来たぜ」
「おおきに。じゃ、始めますか」

こうなる事を予期していたのだろう。
地下室に居た筈のシーニーがホールに姿を現した。

「GvD日本支部から世界人類に対しての宣戦布告や」
「GvD日本支部? まさか、水間さん……」
「まぁ、十中八九 瀬戸は噛んどるやろうな。
 彼奴アイツ一人で何か出来る訳や無いし
 それを踏まえて俺も態々『日本支部』と言った訳やが」
「ミサイルは何処から?」
「GvD所有の物なのか?」
「残念ながら違うな。
 遠隔操作でどこぞの国のモンを
 勝手にぶっ放しよったらしい」
「それ、下手すると世界大戦突入するぞ?」
「GvD、いや…瀬戸からすりゃ万々歳やろ。
 盛大な道連れ付きの自殺やわ」
「巫山戯んな、あの野郎っ!!」

ロッソがテーブルを力強く叩いた。
以前ならこの衝撃で粉々になる筈のテーブルも
今は少し揺れた程度で済んだ。
義手ではなく、己の両手ならば力のコントロールが
以前よりも容易に出来る様になっていた。

「弾道ミサイルの狙いは、何処?」
「日本の首都。東京」
「この辺りも、無事じゃ済まない…」

阿佐は焦りからなのか、表情を強張らせている。
だが【Memento Mori】のメンバーは
冷静にTV画面を見つめていた。

「止められる、のよね?」

妙子の言葉に、【Memento Mori】が全員頷く。

「奴等のテロ行為、必ず止めてみせる」

答えたのはロッソだった。

「晋…」
「俺達はその為に存在する」
「そう云う事。こんなん、想定内や」
「僕達が皆を護る。そう言ったでしょ?」
「シーニーさん、ゲール君……」
「弾道ミサイルは、私に任せて」

ベルデはそう言って微笑んだ。

「大気圏外に誘導して消滅させるから」
「そんな事…出来るのかい?」
「私の能力は、人々を護る為にあるのよ」
「私、じゃねぇだろ」

そう言ってロッソは笑った。
シーニーも、ゲールも笑っている。

「私達、だ。訂正宜しく」
「細かいわね、晋司…」
「ま、それは置いといて」

シーニーが途端に表情を険しくした。

「日本支部のTOPを、この機会に引き摺り出す。
 何時迄も瀬戸の影に隠れて
 しょうもない悪さ し掛けて来て…
 いい加減、こっちも腹に据えかねとるんや」
「うん。瀬戸一人の所為にしようとするの。
 絶対に許せないし、逃がしちゃ駄目だ」
「シーニー、ゲール……」
「先ずは日本支部の壊滅から、だな」
「あぁ。その次は世界や。
 各国に置かれている支部を一つずつ潰す。
 その為にも先ずは……」
「【Memento Mori】からの宣戦布告、だね」
「そう云う事」

【Memento Mori】が遂に
その牙をGruppeグルッペ vonヴォン  Duschenドゥーシェンに剥く。
阿佐は改めて、彼等の結束力の堅さと
その志の高さに感服していた。
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