事件ファイル No.13-5

宣戦布告

戦闘服に着替えた【Memento Mori】の面々は
細かい作戦の打ち合わせをしていた。
いざ戦場に出てしまうと、
それ以降の話し合いはほぼ不可能となるからだ。

「皆! これを…っ!!」

妙子が自室から何かを持ってホールへ走って来た。
小さな箱が数個、彼女の手から見える。

「はい、先ずこれはリーダーのシーニーさんへ」
「はい? 何?」
「しゃがんでください。着けられないから」

彼女がそう言ってシーニーの首に掛けたのは
プラチナで装飾されたネックレスだった。
中央に宝石が填め込んである。

「これ、サファイア?」
「そう。青はシーニーさんの色だから」
「値段、高かったんちゃうの?」
「お給料一杯貰ってたから、大丈夫ですよ。
 次はゲール君ね!」
「はい! 僕は?」
「ゲール君はトパーズ。綺麗な黄色でしょ?」
「うん、凄く綺麗! 妙子さん、ありがとう!!」
「これは…阿佐君に。
 貴方も出るんでしょ? 戦場へ…」
「あぁ。水間さんを止めないといけないから」
「これ…アメジスト。
 貴方には紫色が似合うと思って…」
「俺の一番好きな色だ…。
 ありがとう、妙子さん。最高のお守りだよ」

阿佐の言葉に、妙子は嬉しそうに微笑んでいる。
そんな二人を静かに見守るロッソとベルデ。

「志穂ちゃんはこれ。エメラルドね」

妙子はベルデにも同じ様にネックレスを着けた。
宝石がまるで発光する様に鮮やかな緑色となる。

「宝石が喜んでるみたい」
「きっとそうよ」
「妙子さんのは無いの?」
「有るわよ。私のはローズクォーツ」
「綺麗なピンク色…。
 妙子さんにピッタリ!
 着けてあげるね!」
「ありがとう、志穂ちゃん。
 じゃあ…最後は、晋……」
「……」

ロッソは無言で妙子に近付くと
着け易い様に腰を屈めた。

「…貴方にはルビー。燃える様な赤色」
「……ありがとう」
「それと、これ。
 水間さんに渡して欲しいの」
「……これは?」
「えぇ。アクアマリンのネックレス。
 水色、あの人に似合いそうだと思って…」
「……」

ロッソは暫く手渡されたネックレスを見つめていたが
フッと笑みを浮かべると、そっと妙子の左頬にキスをした。

「えっ?」
「必ず奴に渡しておくよ。
 …つーかさ。この役目は
 本来、俺じゃなくて阿佐だろ?」
「あ…。御免、いつもの癖で……」
「俺は便利屋じゃねぇぞ。
 ま、これは預かっておくけどよぅ」

ホラっとロッソは阿佐の背中を叩いて
妙子に向き合わせた。

「ホンマに良ぇ奴っちゃな。鷹矢って」
「優しいよね。うん」
「晋司の度量を見極められなかったのも…
 GvDの大きなミスだったのよね」
「そりゃ言えてる」
「彼は…今迄散々苦しんで生きて来たからこそ
 誰よりも強く優しい男性ひとに成長した。
 運命を呪いたくなったり
 誰かを怨んだりしたかっただろうけど…
 そうじゃなく、己を鍛え上げる事で
 幾つもの試練を乗り越えて来た……」
「…そうやな」
「だから今度は、瀬戸さんの番なの」
「瀬戸、目を覚まして欲しいね。
 あの人の居場所はGvDに無いよ」
「そう云う事や。
 寂しいなら寂しいってちゃんと言わんとアカン」
「…俺は言ってるだろうが」
「お前の事ちゃうわ」

此方にやって来たロッソ。
彼はシーニーと
顔を見合わせて大声で笑っている。

【Cielo blu in paradiso】を住処とする家族。
妙子が以前言った言葉を思い出し
ベルデは静かに頷いていた。
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