事件ファイル No.13-8

宣戦布告

「父さん? こんな時に一体…」
「出てみ」
「……」

シーニーに促され、渋々阿佐が電話に出る。
この間、妙子の件で実家に電話をしたが
その時には電話口に出てもくれなかった父親。
そんな彼が、一体何の為に。

「はい」
『平助か。ニュースは見たんだろうな?』
「見ました」
『この騒動の主犯はお前の上司とされているが…
 それは、本当なのか?』
「…それは」

阿佐はチラッと仲間達を見る。
そして一言。

「違います。
 彼は嵌められたんです。
 犯人は水間さんじゃありません」
『断言出来るのか?』
「出来ます。俺は彼を信じています。
 彼の【正義】を、信じていますから」
『……』

電話口の父親は何かを考えている様だった。

『平助』
「はい」
『お前は、お前の正義に従え』
「父さん?」
『市民の避難は既に始まっている。
 お前の兄も既に其方に駆り出されている。
 私もこれから、現場に向かう』
「父さん……」
『善い仲間を持ったな、平助。
 お前達に、私達の未来を託すぞ』
「はい、父さん。俺達は絶対に負けません」

『それと…濱嶋 妙子さん、だったか。
 連れ子さんが居るんだったな。
 息子さんの名前は…和司君、と言ったな。
 二人の為にも、お前はちゃんと責務を果たすんだぞ』
「父さん……?」
『生きて、正義を貫け。平助。
 奥さんと孫息子に会える日を、楽しみにしてる』
「…はいっ!!」

電話の内容に、仲間達が優しい笑みを浮かべている。
刑事として、一人の男として
父親に、兄に認められたいとずっと足掻いていた
阿佐の姿を知るからこそ、嬉しかった。

「円陣でも組むか」
「円陣?」
「そう」

ロッソの呼び掛けで
その場に居た全員が一つの円を作り上げる。
互いに顔を見渡し、微笑んでいる。
不安は一切無かった。
この仲間達とならば、
どんな困難でも乗り超えられる。
どんな過酷な状況でも覆せる。
どんな状況下でも戦い続けられる。

「音頭はリーダーが取ってくれ」
「へ? 俺かい?」
「そりゃお前だろ、甲斐」
「最年長さんだもんね」
「此処迄引っ張ってくれたのは、甲斐さんだもん」
「と、言う事で宜しくな。シーニー」
「バッチリ決めちゃって!」
「しゃ~ないなぁ~。
 そしたら…行くでッ!!」
「…締まらねぇな、関西弁じゃ」
「文句言うなや!
 じゃあ、言い出しっぺのお前がやれ! 鷹矢っ!!」
「へいへい…」

笑いながらロッソが音頭役を引き受けた。
改まって空気が締まる。

「それじゃ…皆、行くぜっ!!」
「「おぅ!!」」

【Memento Mori】最大の作戦。

Gruppeグルッペ vonヴォン  Duschenドゥーシェン日本支部の壊滅に向けて
遂に彼等は動き出した。
それぞれの熱い思いを胸に秘め。
そして、行方不明となった
水間を救出するべく。

絶対にしくじる事の出来ない戦い。
にも関わらず、彼等は皆 笑顔を浮かべていた。
その表情に、一切の闇は存在しなかった。
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