「いらっしゃいませ!
ようこそ【Cielo blu in paradiso】へ!」
ドアベルと、来客を告げる晋穂の声。
和司は我に返り、厨房からホールを見つめた。
「?!!」
彼の目に映る人影。
段々に涙が溢れてくる。
和司は、自分でも意識しない内に
厨房を飛び出し、駆け出していた。
「父さんっ!!」
奥の厨房からそう叫び、
長身の男性が此方へと駆けて来る。
勢いそのままに
自分の胸に飛び込んでくるその姿を
優しく慈しむ様に抱き締める。
「…ただいま、和司」
「お帰り…、父さん……。
お帰りなさい……」
「デカくなったな、お前。
俺よりデカいんじゃねぇか?」
優しく髪を撫でながら視線を合わせる。
幼い頃の面影は微かに残っているが
立派な大人の男に成長した、と
彼は満足気に見つめていた。
「あれから何年経ったと思ってるんだ?」
「…何年だっけ?」
「25年だ。
流石に和司も立派な成人に成長したさ」
「そう言えば、瀬戸。お前は随分老けて見えるな。
志穂の力を借りて覚醒済ませたんだろ?
なら、俺達と同じになってる筈だが…」
「それなら髪型が影響してるんだろ。
寧ろ、実際はあの頃よりも若返ってるさ」
「へぇ~。若返る事も有るんだ……」
「志穂はお前の年齢に合わせる事も出来るんやし
別に変な事はあらへんやろ?」
「横槍入れるなよ、甲斐!」
「良ぇやんけ。なぁ、瀬戸ちゃん?」
「あぁ」
「お帰り、皆! 待ってたよ!!」
「お帰りなさい、晋。志穂ちゃん…。
甲斐さんも、高須賀君も…お帰りなさい……」
「ただいま、阿佐。妙子」
「皆、ただいま~!」
懐かしい空気がこの店に流れ込んでくる。
和司は視界が霞んで見え難いのか
何度か袖口で顔を拭いていた。
「ただいま、和司君。
長い間、留守番任せちゃって…御免ね」
「お帰りなさい、志穂ちゃん…。
帰って来てくれるって、信じてた……」
「ただいま! 僕も一緒だよ!」
「お帰り! あ、ゲールってそのまま呼んじゃいそう。
研斗さん、だよね?」
「どっちでも良いよ!
和司君が呼び易い風に呼んで。
高須賀 研斗も、ゲールも
どっちも僕の名前だから!」
「そう言えば、その娘は…?」
「あぁ。俺と妙子の娘。
名前は【
ロッソとベルデの名前を拝借したんだ」
「初めまして、晋穂ちゃん。
私が志穂、この人が晋司。
そして…甲斐さんと、研斗さん」
「あ…、初めまして……。その……」
「これから末永く宜しくね」
そう言って優しく微笑む彼女の笑顔は
まるで物語に出て来る女神様そのものだった。
【Memento Mori】が帰って来た。
あの日。
突如として姿を消した四人は
そのまま世界へと旅立っていた。
世界に撒き散らされた悪意の芽を摘む為に。
彼等は誰にも、何も言わずに
忽然と日本を後にしていた。
世界中を転々と旅しながら
彼等は
もう二度と、自分達の様な目に遭う
人間を生み出さない為に。
そして、核子をこの世界から完全に消滅させる為に。