事件ファイル No.14-2

終 焉

カラーン

「いらっしゃいませ!
 ようこそ【Cielo blu in paradiso】へ!」

ドアベルと、来客を告げる晋穂の声。
和司は我に返り、厨房からホールを見つめた。

「?!!」

彼の目に映る人影。
段々に涙が溢れてくる。
和司は、自分でも意識しない内に
厨房を飛び出し、駆け出していた。

* * * * * *

「父さんっ!!」

奥の厨房からそう叫び、
長身の男性が此方へと駆けて来る。
勢いそのままに
自分の胸に飛び込んでくるその姿を
優しく慈しむ様に抱き締める。

「…ただいま、和司」
「お帰り…、父さん……。
 お帰りなさい……」
「デカくなったな、お前。
 俺よりデカいんじゃねぇか?」

優しく髪を撫でながら視線を合わせる。
幼い頃の面影は微かに残っているが
立派な大人の男に成長した、と
彼は満足気に見つめていた。

「あれから何年経ったと思ってるんだ?」
「…何年だっけ?」
「25年だ。
 流石に和司も立派な成人に成長したさ」
「そう言えば、瀬戸。お前は随分老けて見えるな。
 志穂の力を借りて覚醒済ませたんだろ?
 なら、俺達と同じになってる筈だが…」
「それなら髪型が影響してるんだろ。
 寧ろ、実際はあの頃よりも若返ってるさ」
「へぇ~。若返る事も有るんだ……」
「志穂はお前の年齢に合わせる事も出来るんやし
 別に変な事はあらへんやろ?」
「横槍入れるなよ、甲斐!」
「良ぇやんけ。なぁ、瀬戸ちゃん?」
「あぁ」
「お帰り、皆! 待ってたよ!!」
「お帰りなさい、晋。志穂ちゃん…。
 甲斐さんも、高須賀君も…お帰りなさい……」
「ただいま、阿佐。妙子」
「皆、ただいま~!」

懐かしい空気がこの店に流れ込んでくる。
和司は視界が霞んで見え難いのか
何度か袖口で顔を拭いていた。

「ただいま、和司君。
 長い間、留守番任せちゃって…御免ね」
「お帰りなさい、志穂ちゃん…。
 帰って来てくれるって、信じてた……」
「ただいま! 僕も一緒だよ!」
「お帰り! あ、ゲールってそのまま呼んじゃいそう。
 研斗さん、だよね?」
「どっちでも良いよ!
 和司君が呼び易い風に呼んで。
 高須賀 研斗も、ゲールも
 どっちも僕の名前だから!」

「そう言えば、そのは…?」
「あぁ。俺と妙子の娘。
 名前は【晋穂あきほ】。
 ロッソとベルデの名前を拝借したんだ」
「初めまして、晋穂ちゃん。
 私が志穂、この人が晋司。
 そして…甲斐さんと、研斗さん」
「あ…、初めまして……。その……」
「これから末永く宜しくね」

そう言って優しく微笑む彼女の笑顔は
まるで物語に出て来る女神様そのものだった。

* * * * * *

【Memento Mori】が帰って来た。

あの日。

突如として姿を消した四人は
そのまま世界へと旅立っていた。
世界に撒き散らされた悪意の芽を摘む為に。
彼等は誰にも、何も言わずに
忽然と日本を後にしていた。

世界中を転々と旅しながら
彼等はGruppeグルッペ vonヴォン  Duschenドゥーシェンの拠点を破壊していた。
もう二度と、自分達の様な目に遭う
人間を生み出さない為に。
そして、核子をこの世界から完全に消滅させる為に。
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