水間 次郎。役職は警視長。
俺の直属の上司である。
「どうだ、首尾は?」
「…申し訳有りませんが、なかなか」
「やはりな。
あぁ見えて奴等はガードが堅い」
「……」
「だが、懐に潜り込んで奴等の油断を誘えば
他じゃ手に入らん情報を習得出来る」
水間さんはそう言いながら珈琲を口に含む。
この人からは一切の焦りを感じない。
きっと、何年掛けても粘り続ける気だ。
「又何か有れば連絡を入れます」
「あぁ。期待してる」
水間さんはそう言いながら薄く笑みを浮かべた。
それが何を意味するのか、俺には理解出来なかった。
同時刻。
同じく珈琲に舌鼓を打ちながら
モニターへ冷笑を浮かべる人物。
「それでこそ水間ちゃんやな」
シーニーである。
彼は阿佐に黙って忍ばせた盗聴器を
水間が感知している事に気付いていた。
互いの手の内を探り合うのは
もう何年になるだろうか。
「狐と狸の化かし合いとは
よぅ言ったもんやで」
煙草を咥えながらキーボードをカタカタと叩く。
不意に背後から人の気配がした。
「ゲールか?」
= うん。休憩、取る? =
ゲールは珈琲とクッキーを用意して
この部屋へとやって来たのだ。
「気が利くなぁ~。おおきに!」
= ベルデがね =
「えぇ嫁さんになるわ」
= ベルデはロッソのお嫁さんだよ =
「…まぁ、なぁ~」
カタカタとキーボードが音を奏でる。
忙しなく画面に映っては消えていく画像データ。
シーニーは淹れ立ての珈琲を味わいながら
それ等の情報を確認していた。
「野党のあの議員か…」
= 今回の黒幕? =
「あぁ。前、ニュース見た時
財務大臣に妙な執着を見せとった。
優男やが、言動が幼稚でな。
調べてみたら…」
= へぇ~。父親が財務大臣に選挙で負けたんだ =
「初めから勝ち目が無かったとは言われてたけど。
しかし、それだけの恨みで
NUMBERINGを所有する迄になるとは呆れるわ」
= テロリスト達はどうやって集めたの? =
「金やろうな。不正な金の流れが其処彼処に」
= あらら。下手だね =
「ヘッタクソ過ぎて涙出てくる」
椅子の背凭れを使って伸びをすると
シーニーは新しい煙草に火を点けた。
「掃除やな」
敵勢力を分析しながら
シーニーが静かに言い放つ。
「テロリスト共々、
= 久しぶりだね =
「あぁ。思いっ切り暴れや、ゲール。
お前もそろそろ溜まってきたやろ」
= 判る? =
「そりゃ判るわ。
普段、どんなけ力を抑え込んでるか」
= シーニーが解ってくれてれば
僕はそれで良いよ =
「お前は相変わらず優しいやっちゃなぁ~」
シーニーに褒められ
照れ臭そうにゲールは笑顔を浮かべていた。