事件ファイル No.3-1

男児誘拐監禁事件

ここ暫くは穏やかな時間が流れている。
仕込みを忘れたと
慌ててキッチンに現れたバカップルの片割れは
相変わらず何も身に付けていない状態だ。
どうせ昨晩もイチャイチャしていたんだろう。

「…何だよ?」
「せめてパンツ位履いてから来ません?」
「探しても見付からなかったんだよ」
「……」

恐らくは探しすらしてないだろう。
最近はそんな事が少しずつ分かってきた。

「ロッソ」
「あん?」
「随分とベルデの事、大切に想ってるんだな」
「まぁな」
何時いつから? 目覚めてから?」
「……」

ロッソは急に会話を止め、何かを考え出した。
その表情は何処か重い。

「…まぁ、そんな所だ」

随分と曖昧な返事が来た。
シーニーと違い、
ロッソの曖昧な答えは大体苦渋に満ちている。
吐きたくない嘘を吐かなければならない。
そんな彼の性格が表れているのだろう。

「ベルデ、可愛いもんな」

俺は話題を変えようと思考を凝らしたが
それらしい方向転換は出来ていない様だ。
ロッソは暫く俺の顔をマジマジと見つめていた、が。

「誰にも渡さねぇから」

恐ろしい形相で睨まれた。
酷い勘違いである。

* * * * * *

ゲールがなかなか帰って来ないから、と
ベルデが彼を迎えに行っている。

「こんな事ってあまり無いよね」
「無ぇな。何か遭ったんだろう」

煙草を吸いながら天井を見つめるロッソと
する事が無くて椅子に腰掛ける俺の二人。
ディナータイムの仕込みは終わっているとはいえ
やはりメンバーが揃わないと不安になってくる。

「朝の話だがな」

ロッソは何かを思い出したかの様に口にした。
まだ根に持ってるんだろうか?
俺は恐る恐る彼に視線を向けた。

「結構古いぞ。彼女の事知ってるのは」
「えっ?」
「昔の情報、俺達全員頭に叩き込んでる」
「…ベルデの情報もって事?」
「そうだ」
「じゃあベルデも、ロッソの昔の情報を…」
「いや。彼女は知らないと思う」
「?」
「俺もゲールも教えてないからな。
 シーニーが何も言わない限り、知らないままだろ」
「でも、それって……」
「知らなくても良い事だ」
「……」
「知って欲しくも無いがな。
 俺達の『死んだ時の事』なんて」

彼の話す『古い情報』とは…
彼等自身が命を落とした『事件の情報』の事だと
俺はこの時に察した。

ベルデは本当に何も知らないんだろうか?
何処かでそれを確認したいと思った。
それが、ロッソの気持ちに反すると感じながらも。
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