事件ファイル No.3-2

男児誘拐監禁事件

「ゲール!」

肉屋の前で立ち往生しているゲールを見付けると
ベルデは笑顔で彼に近付いた。

「なかなか帰って来ないから心配したよ?」
「あら、ベルデちゃん!」
「こんにちは、おばさん! …あれ?」

店の軒先に三角座りで身動き一つしない少年の姿。
ベルデは迷う事無く彼に近付いた。
みすぼらしく、あちこち汚れて破れた衣服。

「ねぇ、お腹空いてない?」

不意に声を掛けられ、少年は驚いて顔を見上げた。
ニコニコと微笑むベルデを黙って見ている。

「此処のお肉屋さんのコロッケ、とっても美味しいの!
 一緒に食べない?
 お姉ちゃんが奢ってあげるよ!」

ベルデは少年を無理矢理起こそうともせずに
そのまま向き直って、店主の夫人に声を掛けた。

「コロッケ3つ、追加で!」
「此処で食べるのかい?」
「うん! 皆で食べるわ」
「解ったよ。一寸待ってな」
「はぁ~い!」

ベルデはそう言うと、ゲールにウィンクを送った。
声が出せない彼ではなかなか難しい交渉だ。
少年を助けたくても、どうする事も出来ず
苦肉の策として彼はベルデを精神感応テレパシーで『呼んだ』のだ。

「はい!」

ベルデは出来立てのコロッケを少年に差し出した。
同時に自身は口を大きく開けて
揚げ立てコロッケにかぶりついていた。

「う~ん! やっぱり美味しい~!!」
「ベルデちゃん、いつも喜んで食べてくれるからね。
 こっちも揚げ甲斐が有るよ!」
「だから最近、ロッソがお使いに出してくれないの。
 直ぐにコロッケ食べちゃうから」
「あらあら」

熱々のコロッケを恐る恐る口にする。
優しい芋の味が口中に広がった。

「…いしい」

小さな声で、確かにそう聞こえた。
ベルデは何も言わず、静かに笑みを浮かべて頷いている。
同じ様に、ゲールも。

「お腹空かしてたんだね…。
 オバちゃん、気が付かなくて御免よ」

少年は思わず掛けられた優しい言葉に涙を流した。

『助けて』

その時、ベルデの【耳】に届いた声。
間違いない。
この少年が【心】で発したものだ。

「お姉ちゃんのお家に、来る?
 食べ物屋さんやってるんだ」

ベルデはそう言うと、再び少年の目の高さに座り
笑みを浮かべた。

「このお兄ちゃんも一緒。
 大丈夫。怖くないよ」

差し出された白い手。
少年は小さく頷くと、その手をギュッと握り締めた。

「コロッケ代は、ウチからのサービスさ。
 いつも愛用してもらってるからね。
 遠慮無く取っときな」
「おばさん…。ありがとう!」
「この子を頼むよ、ベルデちゃん。ゲールちゃん」
「うん! 任せて!」

靴もボロボロな少年を優しくゲールが抱き上げ
二人はそのまま家路に向かった。
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