事件ファイル No.3-10

男児誘拐監禁事件

ベルデは最上階で
この組織のトップである男と睨み合い続けていた。
男は拳銃の銃口を
勇人の母親である真神教授のこめかみに当て
ベルデを牽制しているのだ。

『今は動けない』

ベルデは耳を澄ませ
目の前の敵よりも
背後の【音】に神経を集中させていた。

= 目覚める寸前。どうしよう? =
= 目覚めさせてしもうてからの方が
 処分するには好都合や =

シーニーが情報を分析しながら
戦術を組み立てている。
現状を把握していない訳ではない。
勿論、人質の件は頭に入っている。

= 下が片付いた。一気に呼ぶからな =

シーニーは『待っていた』のだ。
男が隙を生み出す瞬間を。
それは、全員がこの場に揃う時。

「お母さんっ!!」

勇人の声が、存在しない筈の空間に響き渡る。

「勇人っ?!」

突如目の前に現れた息子の姿に
母親が反応しない訳が無い。
自分に向けられた銃口を無視して
真神教授は息子に駆け寄ろうと動いた。

「ベルデっ!!」

ロッソの声に、ベルデが動く。
瞬時に彼女の姿が視界から消えた。
次の瞬間。

「ぎゃあーーーっ!!」

男の醜い絶叫と共に
空中に腕が浮かんでいた。
ベルデは真神教授と共に
此方に向かって駆けている。

「これは……っ」
「ベルデが男の懐に潜り込んで
 銃を持った右腕を斬り払ったんだ」
「あの一瞬で?」
「だから言ったろ。
 俊敏性に於いて、彼女に勝てる奴は
 この世界に存在しないって」
「確かに……」

男は斬り落とされた腕を拾う事無く
傷口を抑えたまま半狂乱で
奥の部屋へと逃げ去って行く。
それを誰も追う事無く
黙ったまま男の逃げた先を睨むだけだ。

「シーニー」

ロッソがやがて重い口を開いた。

「皆を安全圏へ避難させろ」
= じゃ、【Cielo blu in paradiso此処】がぇな =

全員の脳裏にシーニーの声が届く。
初めての精神感応テレパシー体験に
真神教授は驚いてロッソを見つめたが。

「時間が無い。説明は後で必ず」
「…解りました」

彼女はロッソ達が何者であるのかを
薄々気が付いた様だ。

「お願いします…。
 アレを、必ず鎮圧してください…。
 アレが世に出てしまったら……っ!」
「勿論。その為に、俺達が存在します」
「やはり…貴方達は……」
「シーニーっ!!」
= 了解。じゃあこの場はベルデに任せて全員… =
「決着は俺が付ける」
= はぁ? お前、自分のダメージ判ってんのか? =
「【奴】を仕留める位、造作無い」

ロッソはそう言って笑っていた。
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