事件ファイル No.3-11

男児誘拐監禁事件

= しかしやなぁ… =

ロッソがどれ位ダメージを蓄積しているかは
シーニーも把握出来ている様だ。
手元のPCで被ダメージを数値化しているのだろう。
敵が核子である以上
生半可な戦力では攻略不可能。
それが解っているからこその助言だったが。

「ロッソ。お願いね」
= ベルデ! =
「大丈夫。私が囮になるから」

ベルデはそう言って勇人に微笑むと
静かに瞳を閉じ、両手を胸の位置で組んだ。
瞬時に彼女の背中から現れたのは
大きな白い翼だった。

「お姉ちゃん…?」
「驚かせて御免ね、勇人君。
 お姉ちゃん、皆を必ず守るから」
「…綺麗」
「え?」
「凄く綺麗。ベルデお姉ちゃんの羽根…」

勇人は恐怖を抱くどころか
大きく目を開き、キラキラした表情で
ベルデを見つめていた。

「勇人。お前は漢だな。
 本物を見極める目を持ってる」
「ロッソお兄ちゃん…」
「シーニー!」

ロッソはそう言って笑うと、
再度シーニーに呼び掛けた。
ロッソの鋼の意志は覆せないと
流石のシーニーも折れたらしい。

= じゃあ真神親子と阿佐、ゲールを転送する。
 それでぇな? =
「上出来だ」
= お前等は自力で戻ってこい =
「何だよ。帰りは送ってくれねぇのか?」
= 複数転送は結構疲れるんじゃ!
 贅沢言わずにベルデに運んでもらえっ!! =
「…解ったよ、ケチ」

やがて屋敷が激しくきしみ出した。
床が大きく揺れ始めている。

「そろそろ来るな」
「えぇ……」

あの男を『喰らい』、動き出したと判断し
ベルデはロッソに近付くと何かを渡した。
炎に包まれたそれは弓の形をしている。
もっとよく見たいと阿佐は目を凝らしたが。

= 行くでっ!! =

シーニーの声がそれを遮る。
彼等が転送された直後
遂に目覚めた核子が姿を現した。

「頼んだぞ、ベルデ」
「任せて!」

彼女はヘルメットを外した。
エンブレムに収まる様に縮小したそれを
ベルトのバックル部分に装着させると
核子を挑発する様に接近し、
一気に上空へと飛んだ。

核子の太い触手がベルデを捕まえようと伸びて行くが
彼女は軽やかに空を舞い、捕まる気配がまるで無い。
やがて、核子のその全容が明らかになる。
大量の髪の毛を連想させる赤黒い触手。
その触手に包まれる様に守られた巨大な赤い瞳。
この歪な生命体こそが【核子】。

そして、それに相対するのが
白い翼で軽やかに宙を舞うベルデ。

「毎度思うが、まるで天使だな」

フッと鼻で笑うと、ロッソは弓を構えた。
先程迄は存在していなかった矢が
炎を纏ってつがえられている。
彼の目はまるでスコープの様に
核子の弱点である赤い瞳を正確に捉えていた。
ロッソの両腕、生身の部分の筋肉が
弓を引くと同時に力強く盛り上がる。
かなりの負荷が掛かっているのにも関わらず
彼は軽々と巨大な弓を引いていた。

「くたばれっ!!」

ロッソが矢を放った。
まるで炎の線の様に真っ直ぐに飛んだ矢は
核子の弱点を完璧に貫いていた。
直後、核子の体の内部から業火が噴き出す。
時折聞こえてくる断末魔は
取り込まれた筈のあの男の物なのだろうか。
それはもう、誰にも分からない。
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