事件ファイル No.3-9

男児誘拐監禁事件

「これ。ロッソ一人で?」

阿佐の驚きも尤もだ。
ロッソが倒したと思われる数は
軽く50体を超えていた。

人形ひとがた相手ならこんなもんだろ」
「(油断しないで。まだ来る!)」
「そうね、ゲール。新手が来そうね」

ベルデはそう言うと、
屈んで勇人の目線に合わせた。

「お姉ちゃん…。
 助けに来てくれたの?」
「勿論よ! だって私達
 もう『お友達』じゃない!」
「お姉ちゃん……」
「勇人君。
 お兄ちゃん達から離れないようにしてね。
 お姉ちゃんはこれから
 君のお母さんを捜しに行くから」
「こっちは俺達に任せろ。
 お前も、気を付けてな」
「えぇ。ロッソも深追いしないでよ?」
「流石に今は無理だ…」

痛々しいながらも笑みを浮かべたロッソの頬に
軽くキスをすると
ベルデはヘルメットのシールドを下げた。
そのまま上階を睨み付けると大きくジャンプし
ドンドンと上へ昇っていく。

「えっ? ど、どうなってるの?」
「彼女は指先に細いワイヤーを仕込んでてな。
 それを交互に引っ掛けて昇ってるんだよ。
 ターザンジャンプの要領で」
「…器用だな」
「俊敏性に於いて、彼女に勝てる奴は
 この世界に存在しない」

そう言った直後にロッソが構えた。
ゲールも同様だ。

「第二陣だ。阿佐、勇人を頼む」
「解った。勇人君は俺が絶対に守り抜く」
「頼んだぜ」

敵の集団が姿を見せた。
此方に向かって来る一団を
二人は難無く倒していく。
阿吽の呼吸のコンビネーションは
流石と言う外になかった。

* * * * * *

最上階の一段手前で
ベルデは何者かの気配を察知した。
今迄の人形ひとがたとは違う気配。

『NUMBERING?』

このまま最上階を目指すのは危険と捉え
彼女は手前の階で着地した。
その直後。

「お姉ちゃんっ?!!」

一階で様子を見守っていた勇人が
思わず声を上げた。
突然姿を現した大男が
彼女の首を力任せに締め上げたのだ。

「くっ…」

チョーカーの上から締め付ける手を
何とか払おうとするが、
流石に向こうの力の方が強い。
金属製の柵の冷たさを背中に感じる。

= 飛べ =

ベルデの脳裏に届く声。
状況を判断したシーニーからの指示だ。
男の力や体重の重さを利用し
柵を支点に定め、ベルデは思い切って
男と共にそのままホール目掛けて落下した。

「ベルデっ?!」

グシャッ

耳障りな音が周囲に響き渡る。
阿佐が咄嗟に勇人の目を覆って
惨状を回避させた。
ホール中央のモニュメントに貫かれて
絶命したNUMBERINGを確認したが
ベルデの姿は其処には無い。

「上だ」
「えっ?」

ロッソに声を掛けられ、上を見上げると
彼女は既に最上階へ到達していた。

「あの程度なら彼女の敵じゃねぇ」
「しかし、どうやって…?」
「落下の勢いを利用して敵の拘束を無効化。
 モニュメントに刺さった奴の体を踏み台に
 一気に最上階迄 飛んだって訳」
「……」
「だから言ったろ?
 彼女の敵じゃねぇってさ」

自慢げに笑うロッソの表情が輝いている。
戦士としての彼女を誇りに思っている。
そんな彼の気持ちが素直に伝わって来た。
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