事件ファイル No.3-3

男児誘拐監禁事件

【Cielo blu in paradiso】ホール。

沈黙の空気が先程から重く流れている。
無理もない。
ゲールは頼まれていた買い出しをすっかり忘れ
ベルデと共に少年を連れ帰って来たのだから。
厨房で何も言わず、只 煙草を吸っているだけのロッソは
子供でなくても威圧感が凄く、怖く感じてしまう。

「…腹、減ってねぇか?」

不意にロッソがそんな事を言い出した。
少年に向けての言葉である事に気付いたのは
彼の直ぐ側に座っているベルデだけだ。

「お腹、空いてる?」

少年は小さくだが、首をコクンと縦に振った。

「減ってるって」
「…解った。阿佐」
「はい?」
「今日は貸し切りだ。看板下げとけ」
「はい?」
閉店CLOSEDのプレート、出しとけって言ってんの!
 今日は『特別なお客さん』を招いてるんだ」

ロッソはそう言ってニヤッと笑みを浮かべた。
彼は最初から、少年を受け入れていたのだ。

「腹が減ってると元気が出ないからな。
 ベルデ。服も何か調達してやれよ。
 このままじゃ風邪引いちまうだろ」
「解ったわ。お裁縫なら得意だし」
「じゃあ、頼んだぜ」

ロッソは、俺とゲールにはこの子の側に居て
話相手になってやれと指示すると
そのまま材料を取り出して調理を始めた。
美味そうな匂いが鼻腔を擽る。

「あら、好い匂い!」

着れそうな洋服を数枚抱えながら
笑顔でベルデが姿を現した。

「あれ? 裁縫とか言ってなかった?」
「合わせながらの方が良いでしょ?
 此処でやろうと思って」
「へぇ~。器用だね」
「こっちも出来たぞ」

慣れた手付きでロッソがトレイを運んで来た。
プレートには様々な料理。
そしてオレンジジュースの入ったコップ。

「お子様ランチ!」
「洋食の定番だからな」
「作れるんだ。イタリアンのシェフなのに」
「阿佐…。お前、料理人を莫迦にしてんのか?」
「ま…、まぁまぁ……」

ベルデに手伝ってもらいながら着替えた少年は
両手を合わせ、小さな声で
「戴きます」と一言述べると
ゆっくり食事を始めた。

「……」

静かに少年を見つめるロッソの目が
まるで父親の様に映って見えた。
世話焼きな性格なのは知っているが
こう見えて、実際はかなりの子供好きなんだろう。
年齢から言えば、結婚して子供が居ても
何ら可笑しくない訳だし。

「阿佐」
「何?」
「お前、刑事デカなんだったらさ。
 俺達がこの子を匿っても
 誘拐犯にされない様に手を打っといてくれよ」
「は…はぁ……」
「『保護してる』だけだからな。俺達は」
「解りました! 解りましたよ、全く…」

毎度毎度、現職警察官を巧くこき使いやがって。
だが、不思議と今回はそれ程悪い気はしなかった。
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