沈黙の空気が先程から重く流れている。
無理もない。
ゲールは頼まれていた買い出しをすっかり忘れ
ベルデと共に少年を連れ帰って来たのだから。
厨房で何も言わず、只 煙草を吸っているだけのロッソは
子供でなくても威圧感が凄く、怖く感じてしまう。
「…腹、減ってねぇか?」
不意にロッソがそんな事を言い出した。
少年に向けての言葉である事に気付いたのは
彼の直ぐ側に座っているベルデだけだ。
「お腹、空いてる?」
少年は小さくだが、首をコクンと縦に振った。
「減ってるって」
「…解った。阿佐」
「はい?」
「今日は貸し切りだ。看板下げとけ」
「はい?」
「
今日は『特別なお客さん』を招いてるんだ」
ロッソはそう言ってニヤッと笑みを浮かべた。
彼は最初から、少年を受け入れていたのだ。
「腹が減ってると元気が出ないからな。
ベルデ。服も何か調達してやれよ。
このままじゃ風邪引いちまうだろ」
「解ったわ。お裁縫なら得意だし」
「じゃあ、頼んだぜ」
ロッソは、俺とゲールにはこの子の側に居て
話相手になってやれと指示すると
そのまま材料を取り出して調理を始めた。
美味そうな匂いが鼻腔を擽る。
「あら、好い匂い!」
着れそうな洋服を数枚抱えながら
笑顔でベルデが姿を現した。
「あれ? 裁縫とか言ってなかった?」
「合わせながらの方が良いでしょ?
此処でやろうと思って」
「へぇ~。器用だね」
「こっちも出来たぞ」
慣れた手付きでロッソがトレイを運んで来た。
プレートには様々な料理。
そしてオレンジジュースの入ったコップ。
「お子様ランチ!」
「洋食の定番だからな」
「作れるんだ。イタリアンのシェフなのに」
「阿佐…。お前、料理人を莫迦にしてんのか?」
「ま…、まぁまぁ……」
ベルデに手伝ってもらいながら着替えた少年は
両手を合わせ、小さな声で
「戴きます」と一言述べると
ゆっくり食事を始めた。
「……」
静かに少年を見つめるロッソの目が
まるで父親の様に映って見えた。
世話焼きな性格なのは知っているが
こう見えて、実際はかなりの子供好きなんだろう。
年齢から言えば、結婚して子供が居ても
何ら可笑しくない訳だし。
「阿佐」
「何?」
「お前、刑事なんだったらさ。
俺達がこの子を匿っても
誘拐犯にされない様に手を打っといてくれよ」
「は…はぁ……」
「『保護してる』だけだからな。俺達は」
「解りました! 解りましたよ、全く…」
毎度毎度、現職警察官を巧くこき使いやがって。
だが、不思議と今回はそれ程悪い気はしなかった。