次、こっちを一緒に掃除しよう!」
「うん!」
数日後。
自らを【勇人】と名乗った少年は
ベルデやゲールの仕事を手伝う迄に懐いていた。
初めて会った時とは別人の様に
満面の笑みを浮かべている。
心から安心出来る場所。
そう、彼が認識している証拠だ。
「で、警察の動きは?」
厨房から静かに様子を見守っていたロッソが
不意に阿佐に声を掛けた。
「行方不明者リストには無かった」
「じゃあ、家出少年ではない…と」
「データ上は。失踪届も出てない」
「学校は?」
「それが…」
「?」
「どうやら行ってないみたいなんだ。
登校をしたという形跡が見当たらない」
「大本のデータ、消されてんじゃねぇの?」
「シーニーも言ってたろ?
データが削除、或いは移行した形跡は
ここ数週間見当たらないって」
「確かに…」
ロッソは新しい煙草に火を点けると
それを口に運んで大きく息を吸い込んだ。
「あの子の背後にな、『見えた』んだよ」
「えっ?」
「一寸厄介なモノがな…」
ロッソはそう言って、固く目を閉じた。
= 聞こえてるんだろ、シーニー?
あの子の素性、探れねぇか?
…嫌な予感がするんだ =
= 言われると思って既にリサーチ済や =
= 流石はシーニー! =
= 後でお前だけ部屋に来い。
その嫌な予感、的中するかも =
= ……あぁ =
換気扇に向かって大きく息を吐く。
ロッソが一瞬見せた表情は
怒りではなく、深い悲しみだった。
「ほれ」
シーニーは部屋を訪れたロッソに着席を促すと
すぐさま目の前のスクリーンに資料を映し出した。
「生物学の新進気鋭、真神教授の一人息子…」
「女史が子持ちってのは正直驚いたわ」
「…シーニー」
「怒るな、怒るな。
茶目っ気のある冗談やがな」
「冗談は良いから早く本題に入れ」
「お前、ホンマにせっかちやなぁ…。
早漏は女にモテへんよ」
「!!」
「この手の冗談、マジで直ぐにキレるよなぁ。
過去に何か遭ったんか?
毎回毎回、ようも飽きんと…」
「本題は?」
殺意を籠めたロッソの視線が流石に痛かったか。
シーニーは漸く本題に腰を据えた。
「真神女史の研究が、【核子】に利用された」
「…何だと?」
「アレが出てくるとかなり厄介な事になる。
お前の嫌な予感はそう云う事やろ」
「核子が……」
堪らずロッソが低い唸り声をあげる。
それはそのまま、シーニーの気持ちでもあった。