事件ファイル No.3-4

男児誘拐監禁事件

勇人はやと君!
 次、こっちを一緒に掃除しよう!」
「うん!」

数日後。
自らを【勇人】と名乗った少年は
ベルデやゲールの仕事を手伝う迄に懐いていた。
初めて会った時とは別人の様に
満面の笑みを浮かべている。
心から安心出来る場所。
そう、彼が認識している証拠だ。

「で、警察の動きは?」

厨房から静かに様子を見守っていたロッソが
不意に阿佐に声を掛けた。

「行方不明者リストには無かった」
「じゃあ、家出少年ではない…と」
「データ上は。失踪届も出てない」
「学校は?」
「それが…」
「?」
「どうやら行ってないみたいなんだ。
 登校をしたという形跡が見当たらない」
「大本のデータ、消されてんじゃねぇの?」
「シーニーも言ってたろ?
 データが削除、或いは移行した形跡は
 ここ数週間見当たらないって」
「確かに…」

ロッソは新しい煙草に火を点けると
それを口に運んで大きく息を吸い込んだ。

「あの子の背後にな、『見えた』んだよ」
「えっ?」
「一寸厄介なモノがな…」

ロッソはそう言って、固く目を閉じた。

= 聞こえてるんだろ、シーニー?
 あの子の素性、探れねぇか?
 …嫌な予感がするんだ =
= 言われると思って既にリサーチ済や =
= 流石はシーニー! =
= 後でお前だけ部屋に来い。
 その嫌な予感、的中するかも =
= ……あぁ =

換気扇に向かって大きく息を吐く。
ロッソが一瞬見せた表情は
怒りではなく、深い悲しみだった。

* * * * * *

「ほれ」

シーニーは部屋を訪れたロッソに着席を促すと
すぐさま目の前のスクリーンに資料を映し出した。

「生物学の新進気鋭、真神まがみ教授の一人息子…」
「女史が子持ちってのは正直驚いたわ」
「…シーニー」
「怒るな、怒るな。
 茶目っ気のある冗談やがな」
「冗談は良いから早く本題に入れ」
「お前、ホンマにせっかちやなぁ…。
 早漏は女にモテへんよ」
「!!」
「この手の冗談、マジで直ぐにキレるよなぁ。
 過去に何か遭ったんか?
 毎回毎回、ようも飽きんと…」
「本題は?」

殺意を籠めたロッソの視線が流石に痛かったか。
シーニーは漸く本題に腰を据えた。

「真神女史の研究が、【核子かくし】に利用された」
「…何だと?」
「アレが出てくるとかなり厄介な事になる。
 お前の嫌な予感はそう云う事やろ」
「核子が……」

堪らずロッソが低い唸り声をあげる。
それはそのまま、シーニーの気持ちでもあった。
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