事件ファイル No.3-6

男児誘拐監禁事件

「よくも潜り込んだもんだ、この鼠が」

グレースーツを着こなした男が
忌々し気に睨み付けるのは
地下牢の天井に腕を吊るされたまま
拷問を受けていたロッソだった。
腫れ上がった顔を不敵に歪め
彼はそれでも男達を挑発している。

「くっ! 莫迦にしやがってっ!!」
「うぐっ!!」

もうどれ位殴られ続けているだろうか。
頑丈な体も、こう云う時は少し持て余す。
薄く開くしか出来ない利き目で
彼は勇人の無事を確認していた。

『母親は最上階って言ってたな…』

男達の言葉を一言一句聞き凝らす事無く
ロッソはそれでも冷静に対応していた。

『NUMBERINGの気配はあまり感じない…。
 存在していたとしても数体、か。
 それよりも、警戒すべきは核子だ』

【目】で核子の場所を調べようとするが
最上階辺りに何かの防御壁を張っているのか
地下のこの場所からは少し確認し難い。
精神集中すればもう少し鮮明に見えてくるだろうが
拷問を受けている今の状態ではそれも叶わない。

『今に見てろ。全員、ぶっ殺してやる』

物騒な事を心の中で小さく呟き、彼は意識を失った。

* * * * * *

「核子?」
「そう。阿佐は初めて聞く単語やな」
「聞いた事も無いよ、そんな言葉。
 いや、それよりもどうしてそれを…?」
「勇人の母親は生物学専門の学者さんや。
 彼女の能力を悪用しようとした奴等が
 勇人を利用して彼女を脅迫してる」
「何だってっ?!」
「と、云うのが俺とロッソが立てた仮説」
「じゃあ、ロッソはそれを解ってて…?」
「そうじゃなきゃ、彼が態々
 信用出来ない人物に勇人君を託さないわ」
「ベルデ……」
「彼だってきっと、苦しんだ筈…。
 優しい男性ひとだもん、ロッソは……」
「(早く助けに行かないと!)」

ゲールが手話で救助を訴えると
シーニーは首を横に振った。

「えっ? 何でっ?!」
「救助、救援の類やない。
 俺等が今から行うのは…【掃除】や」
「掃除?」
「核子をこの世界から消滅させる」

シーニーの表情がいつものシニカルな笑みから
真剣なものへと大きく変化した。

「俺等の存在意義や」
「シーニー……」
「阿佐。お前も目に焼き付けとけ。
 この世界に存在しちゃアカン生命体を」
「生命体? 核子って奴が…?」
「ロッソが拠点に潜り込んでくれた御蔭で
 転移ポイントも固定出来た。
 全員、俺が一気に瞬間移動テレポートで跳ばすからな」

ベルデ、ゲールが力強く頷く。
阿佐も隠し持っている愛用の拳銃に手を当てると
静かに、しかし力強く頷いてみせた。
Home INDEX ←Back Next→