事件ファイル No.4-10

的場一家 惨殺事件・前編

「志穂、良い? 此処から絶対出ちゃ駄目よ。
 貴女だけは……」

お姉ちゃん? 何?
どうして私だけ此処で?
クローゼットで、隠れて…お姉ちゃんは?
お父さんと、お母さんは?

ねぇ? 私、どうしたら良いの?

* * * * * *

「!!」

喉が裂ける位に叫んで目を覚ました。
全身が震えてる。

「ベルデっ?!」

カーテンを挟んだ先の区画で眠ってた筈のロッソが
慌てて此方側に駆け付けてくれた。

「ベルデ、大丈夫か? 何が遭った?」
「助けて…。お父さん、お母さん…。
 お姉ちゃん……」
「ベルデ……」
「助けて…鷹矢たかやさん……」
「……」

思い出した。
自分が何者なのかを。
そして、自分が殺された瞬間の事を。

「助けて……」

ロッソは何も言わず、
震える私を優しく抱き締めてくれた。

「鷹矢さん……」

まるで、【彼】に抱き締められている様な錯覚。
鷹矢さんが助けてくれたんだ。
そんな風に、私は感じ取っていた。

嗚呼、そうなんだ。
ロッソは…鷹矢さんに似てるんだ。
死ぬ前にもう一度逢いたかった…
私の、初恋の人。
もう二度と逢えなくなった…大切な人。

「…ロッソ」
「大丈夫か、ベルデ?」
「うん…。ありがとう……」

御免ね、ロッソ。
今だけ。この一瞬だけ、鷹矢さんで居て。
せめて…この一時だけ、錯覚ゆめを見させて。

* * * * * *

「鷹矢さん」

一瞬、体が硬直した。
もう呼ばれる事の無くなった俺の【本当の名前】。
まさか彼女がその名を口にするとは
考えもしていなかった。

『最期のその瞬間…
 俺に助けを求めてくれていたのか…?』

20年経って初めて知った真実に
俺は打ちひしがれた。
彼女を助けられなかった事。
孤独な思いのまま、20年眠り続けていた
彼女の心を思うと居た堪れない。
傍にすら、居てやれなかった。
俺は何の為に……。

「…ロッソ」
「大丈夫か、ベルデ?」
「うん…。ありがとう……」

『済まない、志穂…。
 済まなかった……』

もう二度と手放しはしない。
誰にも渡したりしない。
彼女だけは、俺が守る。
嘗て、彼女の家族の眠る墓標に誓った言葉を
俺は静かに口にした。

「必ず、見付ける。そして…」
「?」
「必ず、復讐ねがいを果たす」
「ロッソ…?」
「お前に、誓うよ。ベルデ」

彼女は静かに頷くと、
自分の唇を俺のそれに合わせて来た。
女からキスされた事は、あまり記憶に無い。
長い口付けを交わした後…
その晩、俺達は初めて結ばれた。
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