事件ファイル No.4-11

的場一家 惨殺事件・前編

「御免、ベルデ」

最初、そう言われた。
何を謝っているのか判らなくて
私は首を傾げた。

「お前を抱きたい」
「今…抱き締めてもらってるよ?」
「いや、そうじゃないんだ…」

彼の言う『抱く』って言葉の意味が
全然解ってなかった。
今思えば、本当に私は子供なんだと呆れる。

「…幻滅されるかも知れないけど
 その…お前とSEX、したいって…思ってる」
「……私と?」
「…あぁ」
「こんな子供なのに…?」
「そうは見えないよ。立派な淑女レディだ」
「本当に?」
「今の状況で流石に見え透いた嘘は吐かないって」
「ロッソ……」
「こんなオッサンが言う台詞じゃないけど…」
「オジサンじゃないよ、ロッソは」
「ベルデ……」
「ロッソが『初めて』の人なら、嬉しい……」

私は素直にそう思った事を伝えた。
初めては、ロッソの様な優しい人が良い。
そう伝えると、ロッソは微笑みを浮かべてくれた。
何処か泣き出しそうな、悲しげな微笑み。
その表情は今でもよく浮かべるし
そんな感じになった時は
決まって優しいキスを送る様にしてる。

口には出せない『寂しさ』が彼の中に在って
きっと、私に救いを求めている。
そう云う風に感じ取ったから。

今でこそ、態と乱暴な抱き方もするようにもなったけど
基本的にロッソは優しいSEXをする方だと思う。
この時は私が初めてって云うのもあってか
物凄く愛撫に時間を掛けてくれてた。
全身の緊張が取れて、心身共に解れていくと
ダイレクトに彼の存在を感じ取る様になれた。

『しほ』

一瞬、そう聞こえた。
彼の口から洩れた音ではない。
心の声、とも少し違う。
彼が発したのかどうかすら定かじゃない。
だけど、ホッとした。
理由は解らないけど、何故か安心出来た。

この夜が永遠とわに続いてくれれば良いのに。
そんな思いを抱きながら
私はロッソと溶け合い、一つになっていった。

* * * * * *

あれから何日経過した頃だろう。
いつもの様にトレーニングを終えて部屋に戻ると
ベッドに突っ伏して泣いているベルデの姿が在った。
尋常じゃない様子に嫌な気配を感じ取る。

「ベルデ?」

俺が呼び掛けると、彼女は涙を流しながら
震えた状態で俺を見つめた。

「どうした? 何が遭った?」
「…御免なさい」
「? 何だ、ベルデ? 一体どうした?」
「私…嘘、吐いてた……」
「嘘?」
「貴方が…『初めて』なら、良かったのに……」

その一言で俺は察した。
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