事件ファイル No.4-9

的場一家 惨殺事件・前編

Verdeベルデ。それが私の名前。

Rossoロッソと名乗った同室の男性は
それからずっと、私の保護者となってくれた。
色んな事を教えてくれたし、
いつも一緒に居てくれた。
訓練にも付き合ってくれたし
彼と居ると、確かに自分は安心出来た。

シーニーやゲールも優しかったけど…
彼とは少し違って感じる。
ロッソが【特別】なのかな?

彼は私に対して
『友達の様に気楽に付き合ってくれ』って
笑顔で言ってくれた。
最初は幾らなんでもロッソに失礼だし
私よりもお兄さんだからって言ったけど
敬語で話したりせず、
フランクに付き合って欲しい、と。
彼の望みだって言ってくれたから
それからはお友達と話す様な感覚で
ロッソと会話をする様になった。

訓練後にシャワーを浴びて汗を流すんだけど
シャワー室から出る時の彼はバスタオル姿だから
毎回ドキドキしてしまう。

ロッソの腕に色の違う部分を見付けて
それは何なのかと質問した事がある。
亡くなった時に両腕と両脚を失ってしまったから
今は義手と義足を付けているのだと教えてもらった。
あまりにも配慮に欠けた質問をしたと
私は後悔で頭が一杯になる。

「泣くなよ」
「…ごめ、御免なさい……」
「泣かなくても良い。
 俺は、泣いて欲しくないから答えたんだ」
「ロッソ…御免なさ……っ」
「……」
「?!」

唇の辺りに熱を感じる。
ロッソが私にキスしてくれてるって判ったのは
少し時間が経ってからだった。
目を大きく見開き、彼を真っ直ぐに見つめるしかない。
やがて唇が離れていくと
熱と共に何かが去っていく様に感じた。

「キス、もしかして初めてか?」

声を掛けられ、何度も頷く。
こんな事…一度も経験が無かった、と。
彼は私の返事を聞いて、嬉しそうに笑った。

「そうか…。じゃあ、驚かせちゃったな」
「…でも、ロッソなら…平気」
「そうか…。良かった」
「『初めて』が、ロッソで良かった」

それは本心。
正直な私の気持ち。

彼は何か懐かしさを感じる。
何も思い出せないのが歯痒い位
彼には言葉に出来ない【想い】を感じる。

「ねぇ、ロッソ」
「何だ?」
「私達、何処どこかで会った事あるのかな?」

一瞬だけ、ロッソが悲しそうな顔になった。
でも本当に、一瞬だけ。

「どうなんだろうな。
 俺も昔の事はあまり覚えてねぇから」
「そうなの?」
「あぁ。一度死んでるから、
 その際に記憶が削り取られたのかも知れん」
「…そうなんだね」

今思えば、巧くはぐらかされたんだけど
当時の私はそう云うものなんだと
素直に納得して、疑う事も無かった。
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