事件ファイル No.4-13

的場一家 惨殺事件・前編

俺は水間さんから一冊の資料を手渡された。
23年前に発生し、実質迷宮入りとなった
的場一家 殺人事件の書類だ。

「この事件の顛末を頭に叩き込んでおくと良い。
 お前にとっての切り札になる」
「…彼等に対して、ですか?」
「そうだ。奴等にとっては避け様の無い弱点」
「……解りました」

何気無く拍子を捲ると
其処には的場一家の家族写真が1枚貼られていた。
写真を見て、思わず息が止まる。
中央で椅子に座り、微笑んでいる少女。

「…ベルデ?」
「そうだ」
「じゃあベルデは、彼女は…
 この事件の生き残り、なんですか?」
「違う」
「え?」
「ベルデ…いや、的場 志穂は
 この事件で家族と共に殺されている」
「だけど、それがどうして…」
「彼女はG-Cell保持者だ」
「G-Cell?」
「【神の遺伝子】と呼ぶ者も居るが、詳細は不明。
 しかし彼女がそのG-Cellの作用で
 自力復活した事実は確認されている」
「完全死からの自力復活……」
「彼女には死者を蘇らせる力が有るらしい」
「…信じられない」
「だろうな。だが、事実だ」
「……」

23年前に15歳だった少女。
そのまま生きていたら、今頃は38歳…か。

「ロッソと同い年になるんだな」

だからロッソはベルデを直ぐに庇うんだろうか。
誰よりも彼女に親近感を抱き、優しく接するのは。

「ロッソはベルデと生前に面識が有ったと思われる」
「えっ?! ど、どう云う事ですか?」
「通っていた高校こそ違うが、あの二人は同学年だ。
 同じ地区に学校が在ったそうだから
 登下校時に顔を合わせる事も有っただろう」
「……互いに、その事は」
「ロッソは知っているだろうな。
 彼奴アイツが殺されたのは35歳の時。
 記憶の損失も殆ど無かったと聞く。
 勿論、過去の事も詳細に覚えているだろうさ」
「そんな事、ロッソは一度も…」
「言わんだろうな。ベルデの【耳】を警戒して」
「そうか…。彼女は心の声も聞こえるんだった……」
「ベルデの記憶が何処迄蘇っているのかは知らんが
 初めて会った様な顔をして
 奴が彼女と接していると思うと
 不謹慎だが、少し笑ってしまうな」
「水間さん……」
「NUMBERINGは基本的に過去を強制消去する」
「…過去を? 強制的に?」
「そうだ。兵器に過去は不要。
 記憶も、名前も、家族も、友人も。
 全て、消し去られる運命」
「そんな……」
「ランクSSSである【Memento Mori】は
 一般兵と違い、記憶を消去されていないが
 自ら口にする事を禁忌としている。
 シーニーの号令で」
「それじゃロッソは…
 ベルデに自分達の過去を
 一切話せないんですか?」
「そう云う事になる」
「…酷い話だ」

ロッソが時折見せる深い悲しみの表情。
その理由が少し解る気がした。

『きっと『あの頃』を、共有したいだろうに。
 ベルデの為にも、自分の為にも……』

折角蘇っても、会いたい人に会えたとしても
こんな事を経験しなくちゃいけないのなら…
良い事なんて少しも無いのかも知れない。
そんな生き方を、彼等は強いられている。

「一体、何の為に……」

その答えはまだ、誰にも見えてないんだろう。
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