「あれ、ロッソ。ベルデは?」
「知らん」
「ゲールも居るし。今日は一緒じゃないんだ」
「彼女だって偶には一人で散策もしたいだろうよ。
男が一緒じゃ買いたい物も買えんだろうし」
「それって何? 下着とか?」
「阿佐…。デリカシー無ぇのか?
解ってても言うんじゃねぇよ、そんな事」
「…ロッソってさ。
誤解されがちだけど凄くフェミニストだよな」
「Solo Verde è una donna speciale.
(ベルデだけが特別な女なんだよ)」
「え? 何? 何語??」
随分流暢に外国語を喋れるんだな。感心した。
いや、それよりも何語なんだ?
「じゃ、俺は仕込みに入るとするか。
ゲール、阿佐の相手は頼んだぜ」
「(任せて!)」
「相手って…! 俺、子供じゃないぞ!!」
隣でクスクスと笑うゲールに対して
悪態を吐く訳にもいかず。
渋々俺は彼と共にホールの掃除を始めた。
「これと、これ。後は…うん。全部買えた!」
買い物メモを黙読で確認しながら
ベルデは満足そうにエコバッグの中身を覗いた。
「なかなかゲールや阿佐と一緒だと買い辛いのよね。
女の子の身の回り品って」
新色のリップのパッケージを見ながら
ベルデは今朝のロッソとの会話を思い出した。
「欲しいのか?」
TVに流れるCMをぼんやりと眺めていたら
彼は何かに気付いたかの様に声を掛けた。
「淡いピンク色か。似合うかもな」
「え? 買っても良いの?」
「偶には化粧もしたいだろ?
しなくても、充分綺麗だけどさ」
「う~ん…。ロッソに見て欲しいなぁ~って」
「俺は見せて欲しいな」
ロッソは基本的に、女の化粧等 興味の無い男だが
ベルデの事になると話は別らしい。
「気に入った色、2~3本見てこいよ」
「良いの?」
「良いよ。付けた所、見たいから」
快く送り出してくれたロッソには感謝しかない。
彼は何時だって、等身大のベルデを守ってくれている。
「えへへ……」
ニコニコしながら店を出ると
不穏な空気を感じ取った。
耳を其方に傾けると
男女が言い争いをしているのが判る。
『何だろ? 嫌な感じ…』
次の瞬間、男は女性の隣に居た子供を
道路に向かって突き飛ばした。
女性の悲鳴が響き渡る。
しかしそれよりも先にベルデが反応した。
彼女は自身の俊敏性を生かして
車に轢かれる直前の子供を抱き起こすと
素早く車道から歩道へと移動した。
「和司っ!!」
女性は慌てて二人の所へと駆け寄った。
「和司? 大丈夫っ?!」
「お母さん? 大丈夫ですよ。ね!」
和司と呼ばれた男の子は
母親とベルデの顔を交互に見ながら
御機嫌に笑っていた。
「はい、和司君。
お母さんの所に帰ろうね」
「ありがとう御座います。本当に……」
そう言ってベルデと顔を合わせた女性は
突然口に手を当てて驚きの表情を浮かべた。