事件ファイル No.4-2

的場一家 惨殺事件・前編

同じ頃。

地下の自室に籠っていたシーニーは
静かに或る文献に目を通していた。
年季の入った、かなり古い文献。
何かの事件簿の様でもある。

= シーニー =
「ゲールか? 何や?」
= ベルデが、泣いてる =
「う~ん…。
 そう言えば、そんな時期やな」
= うん…… =

シーニーは読んでいた文献を閉じると
鍵付きの戸棚へ丁寧に返した。

= それ… =
「あぁ、23年前のあの事件や」
= やっぱり…… =
「もう一度検証し直す必要がある。
 俺等にとっても。そして…」

シーニーは虚空を睨み付け、静かに言葉を発した。

「あのにとってもな……」

* * * * * *

【Cielo blu in paradiso】の店内。
見渡しても確認出来ない姿。
俺は厨房のロッソに声を掛けた。

「ロッソ。ベルデは?」
「散歩」
「ゲールと?」
「あぁ」
「へぇ…。珍しいな。何で?」

何気無い一言のつもりだったが
返って来たロッソの鋭い視線に
思わず俺は息を飲んだ。
眼鏡越しだと云うのに圧が半端無い。

「…いや、別に俺が
 其処迄聞かなくても良いよな。
 ……御免」
「……」

誰も寄せ付けない無言の圧力。
思わず飲み込まれそうになった。

「この時期はな、一寸ナーバスになるんや」

奥の部屋から出て来たシーニーは
そう言って笑みを浮かべ、厨房に入る。
ロッソはシーニーにも
睨む様な冷たい視線を向けたが
彼は全く動じていない様子だった。

「俺等全員。クリスマス周辺は苦手でな」
「…そうなんだ」
「そりゃそうやろ。
 自分が『殺された』日に
 機嫌が良くなる訳無いし」
「あっ!!」
「俺等を監視する役目負ってるんやったら
 殺人事件の内容は最低でも頭に入れとき」
「五月蠅ぇよ、シーニー」
「少し位はヒントやらんと
 阿佐が可哀想やんけ」
「『黙れ』って言ってんだっ!!」

手にした包丁をまな板に叩き付けると
ロッソは殺意を籠めた目で
シーニーを睨み付けた。
だが、シーニーは全く動じない。
涼しい笑みを浮かべているだけだ。

「お前では俺に勝てんよ」
「…っ!」

意味深な二人の遣り取り。
力関係に於いてはシーニーの方が
遥かに上に位置しているだろう事が
俺には伺い知れた。

「阿佐」
「あ、はい?」
「ベルデとゲールを迎えに行ってあげて。
 今はこの地点に居るから」
「判った」
「俺等はもう少し『お話』してる」

そう言って軽くウィンクをしたシーニーだったが
俺には却って
彼の一挙手一投足が怖く感じてしまった。
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