事件ファイル No.4-3

的場一家 惨殺事件・前編

「阿佐には退場してもろうたし
 これでゆっくりと話せるな」

シーニーは先程迄の笑みを一瞬で消し去った。
無表情で体温を一切を感じさせない。

「お前は、もう少し
 感情をコントロールするすべを身に付けろ。
 直ぐ怒りに任せて周囲を破壊しまくってたら
 後始末する方も堪ったもんやあらへん」
「……」
「お前の場合、それが【殺し】にも簡単に繋がる。
 あの絡みとなれば尚更や」
「じゃあ、お前はどうなんだよ?」
「…犯人に対してか?
 それとも、【その裏】に対してか?」
「両方だ」
「実行犯に関しては
 お前が文字通り【肉片ミンチ】にしたやろうが」
「この手で木っ端微塵にしても、まだ気が済まねぇ」
「そう云う所が『危険なヤバい』んよ」

シーニーはそう言って溜息を吐いた。

「俺もゲールも、
 まさかお前があそこまでするとは
 思ってへんかった」
「……」
「咄嗟にベルデの目を塞いで正解やった。
 あんな姿、流石にあのには見せられん」
「……」

ロッソは眼鏡を外すと
そのまま真っ直ぐにシーニーを見つめた。

「俺の何かを『見よう』としてるなら…
 全く見当外れで無駄な行為やぞ」
「…秘密主義が」
「当たり前や。
 【Memento Mori】がお前みたいな
 直情型ばっかりやったら
 あっと言う間に敵に皆殺しにされるわい」
「ケッ!!」
「昏睡期間が短かったってのも
 もしかすると【問題】やったのかもなぁ」

シーニーは胸元の煙草セブンスターを取り出し
慣れた手付きでそっと口元に運んだ。

「お前は彼女と『馴染み過ぎ』てる。
 それも、遺伝子レベルでな」
「……」
「ベルデの【悲しみ】に、
 お前は【怒り】で反応する。
 自分自身で、自覚無いか?」
「…有る」
「そうか。やっぱりな」

シーニーが煙草を吸い始めたので
ロッソは厨房の換気扇を付け
自分も愛用の煙草マールボロを咥えた。

「阿佐に関しては」

不意にシーニーが阿佐の名前を口にした。

「不自然に隠すよりも
 サラッと情報を流した方が良ぇ」
「奴の背後には水間が居る」
「解っとるよ。
 俺の流す情報は水間が既に持ってるモンや。
 少々 阿佐に流したところで
 此方にダメージは一切入らん」

そう言ってニヤリとシーニーが笑う。
背筋が凍る様な不気味な微笑み。

「…楽しんでるんだな」
「そう見えるか?」
「あぁ…」
「なら、そうかもな」
「いい性格してるぜ。
 人の心を揺さぶるのがさぞかし好きと見える」
「お前や阿佐には務まらんやろうな。
 俺の前職は」
「…だろうな。やりたくも無い」
「その方が良ぇ。人間不信が治らん様になる」

冗談っぽい言い回しが、却って真実味を増す。
ロッソは返事をせずに
黙ったまま静かにシーニーを見つめていた。
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