事件ファイル No.4-5

的場一家 惨殺事件・前編

シーニーは薄暗い部屋で一人
あの文献を静かに読み耽っていた。
そこにはベルデの過去
的場まとば 志穂しほ】の最期について
その家族の死と共に詳細に書き込まれていた。

聖夜クリスマス・イヴに行われた惨劇は
当時のワイドショーを大いに賑わせた。
犯人は一応逮捕されたとあるが
精神鑑定の結果、
事件当時は心神喪失状態であり
刑事責任能力が欠落していたと判断された。

『心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する』

刑法にはそう規定されている。
刑罰に処される事は無いが、犯人は
『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の
 医療及び観察等に関する法律(医療観察法)』に基づき
医療施設に送られ、治療と保護観察を受けたとある。

「問題は、【此処】や」

シーニーはそう呟き、低く唸った。

「何処の医療施設に送られたのかが明記されてない。
 期間も不明。保護観察所も同じく不明」

確かに、事件そのものや裁判に関しては
詳しく書かれてあるが
犯人のその後に関しては言葉を濁す様な表記が目立つ。

「もし、この事件が『計画されたもの』である場合」

『犯人を匿う』と云う手段に施設を利用したと考えられる。
そもそもこの事件は最初から色々な面でおかしかった。

「ストーカーによる一家惨殺、だったっけ?
 確か最初の報道は…」

シーニーはキーボートを操作し、何かを検索する。
モノの数秒で目当てのページに辿り着くと
彼は何度か頷きながらその内容を整理する。

「犯人の供述が二転三転しとるな。
 最初は姉に対するストーカーの執着心。
 それが、父親に対する業務上の恨みになり
 次は母親に対するクレームの逆恨み…か」

机の上に広げられたノート。
其処にはこの事件の相関図が細かく描かれている。
ボールペンの尻でノートを軽く叩きながら
シーニーは溜息を吐いていた。

「だが、的場一家と此奴には『まるで接点が無い』。
 最初の供述、ストーカーの一方的な横恋慕…なら
 まだ筋は通っている筈だが、何で変えた?
 それに……」

彼は或る点に注目していた。

「犯行動機にすら、【志穂】の名前が一切出てない。
 不自然な位に彼女の存在を避けとる」

シーニーは、この事件の真相を或る程度掴んでいる。
犯人の狙いは姉でも両親でもない。

「志穂を殺す為。そして、それを疑われない為」

犯人は態と彼女の家族を巻き込んで
凄惨な事件を起こした。
狙いが【志穂】である事を隠す為の
カモフラージュとして。

「木を隠すなら森の中、か。
 …クソやな。
 ロッソやあらへんが、胸糞悪いわ……」

シーニーはPCの電源を落とし、
文献を鍵付きの本棚へ仕舞った。
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