事件ファイル No.4-7

的場一家 惨殺事件・前編

バルコニーで夜空を見上げながら
ゲールも又、過去を思い返していた。

まだ自分達が【研究所】で生活していた頃。
目覚めたばかりの自分の事を
色々と世話してくれたのはシーニーだった。
ゲールより5年前に目を覚まし
それ以降は仲間が目覚めるのを待っていたと
彼は静かに語ってくれた。

【志穂】の事はその時に知った。
彼女が自分を蘇らせてくれた事。
そして、肝心の彼女は未だ
深い眠りの中に居るという事も。

「いつかは目覚めてくれると思うが」

治療カプセルの中で眠りに就く志穂を見つめながら
シーニーは悲しそうな表情を浮かべていた。

「目覚めた時、果たして何年経過してるか。
 その辺りが懸念材料やな」
= どうして? =
「…彼女はな。亡くなった年で時間ときが止まっとる。
 いつまでも15歳のまんま。
 それがどう云う意味か判るか?」
= 成長してないって事? =
「そう。何年経っても若いまま。
 それってつまりな
 『同じ時代を生きて来た者』との間に
 ズレが発生してるって事なんや」
= 同じ年なのに、見た目が全然違って来るとか? =
「そう云う事やな。
 彼女は老ける事も無く若いままやけど
 同級生はもう中年になっとるよ」
= じゃあ…お話しても通じなかったりする? =
「通じんやろうな。
 彼女が眠ってる間にも時間は流れとる。
 流行や話題もその都度替わってるんやさかい」
= …可哀想 =

ゲールはそう呟き、涙を流した。
時間に取り残されてしまった少女。
そんな孤独を、彼女は まだ知らない。

「同じ記憶を共有出来る存在、か」

シーニーは静かにそう呟いた。

= 記憶? =
「あぁ。志穂にはもう、家族が居らん。
 彼女だけ生き残ってしもうたからな。
 学友も、彼女が死んだと認識しとるやろう。
 外の世界に出ても、
 もう彼女の居場所は何処どこにも無い。
 このまま眠り続けた方が…
 志穂にとっては幸せなんかも知れんな」
= そんな事無いよ! =
「?」
= そんな事無い!
 目覚めたら、きっと良い事沢山ある! =

ゲールは信じたかった。
志穂には、目の前の少女には
このままで終わって欲しくはなかった。

= 家族が居ないのなら
 僕達が家族になれば良い。
 これからを皆で楽しく暮らせれば良い =
「ゲール……」
= 僕達が彼女に喜びをプレゼントすれば良い =
「…そう云う考え方も有りやな」

そう言って笑ったシーニーの表情を
ゲールは今でも鮮明に覚えている。

= 僕 信じてる。
 きっと皆、幸せになれるって =

少しずつ、事態は好転している。
ゲールはそれを信じて、今も戦い続けている。
何よりも自分だけは決して諦めない。
温和な彼の、秘めた覚悟が其処に在った。
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