事件ファイル No.5-11

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

「おい? 何が遭ったっ?!」

妙子の手当てを終えたロッソは
阿佐に何事かと問い詰めた。

「帰って来た時からずっと
 彼女の様子がおかしかった。
 誰に何を吹き込まれたんだ?」
「それは……」
「うっ……」
「妙子? 大丈夫か?」

ロッソは優しい手付きで妙子を抱き起こす。
随分と慣れた仕草。
阿佐は奇妙な感覚を覚えた。

「…晋?」
「いや、俺は……」
「…ロッソ、だったわね。
 御免なさい。まだ慣れてなくて…」
「それは良い。具合はどうだ?」
「…少し痛いけど、大丈夫。
 和司は?」
「無事だ。今はゲールが面倒を見ている」
「…ベルデちゃんは?」
「……」
「居ないの? 一体何処へ?」
「…判らん。
 何か思いつめた様な顔で出て行ったきりだ」
「じゃあ追い掛けないと!」

妙子は慌てて立ち上がろうとするが
激痛が全身に走り、そのままよろめいた。

「無理すんな」
「ご、御免なさい」

妙子はふと、ロッソの右こめかみに目をやった。
そしてフッと笑みを零す。
それが何を意味しているのか、
阿佐には解らなかった。

「刑事さん」
「え? あ、はい」
「ベルデちゃん、捜してくれませんか?
 彼女…今、凄く傷付いてる。
 早く迎えに行ってあげないと」
「…解りました。直ぐに行きます」

阿佐はチラッとロッソを見た。
今は動けない彼の代わりに
阿佐は何としてでもベルデを見付けるつもりだ。

「入れ違いになる可能性もある。
 或る程度捜して見付からなかったら…
 一旦、引き返してこい」
「…了解」

らしくない注文だ、と思ったが
ロッソも阿佐の事を心配してくれているのだろう。
天気予報ではこの後、天候が崩れ
雪が積もるとある。

「なるべく早く帰って来るよ。
 ベルデと一緒に」
「あぁ。頼んだ」

ベンチコートを勢いよく羽織ると
阿佐はそのまま店を後にした。

* * * * * *

二人きりになった店内。
ロッソは黙ったまま、妙子を見つめていた。
顔も、体も痣だらけで
なぜこんな目に遭わなければならないのかと
憤りが全身から噴き出しそうだった。

妙子はそっと彼の右こめかみに手を触れた。
愛し気に何度かそっと撫でる。

「?」

彼女は何も答えない。
只、優しい笑みを浮かべて
こめかみを何度も撫でているだけだ。

「あぁ~、もう限界やな」
「シーニー?」

背後から音も無く現れたシーニーに
ロッソは慌てて妙子から離れようとする。

「構へん、構へん。そのままで居り」
「しかしだなぁ…」
「妙子さんは、最初から判ってたって事や」
「……」
「下手な芝居打って恥掻いたな、お互い」
「シーニー、俺は……」
「打ち明けんならん時が来たようや」

深く溜息を吐き、シーニーは妙子を見つめた。
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