事件ファイル No.5-13

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

しょんぼりとした阿佐が帰宅したのは
22時半を過ぎた頃だった。
かれこれ半日近くベルデは行方不明のまま。

「雪も積もってきてるし、流石に心配だよ…」
「ベルデちゃん……」

チラッと時計を見たロッソが
厨房から大きな袋を出して来た。
綺麗にラッピングされたそれを丁寧に開けると
鮮やかな緑色のコートが姿を見せた。

「ロッソ…それって…?」
「これ? クリスマスプレゼント」
「ベルデに?」
「あぁ。枕元にこれを置いてやるつもりだったがな」
「晋……」
「良い子にはサンタクロースがプレゼントをくれるんだ。
 そろそろ彼女にもそんな楽しみがあっても良いだろ」

聖夜クリスマス・イヴに殺されてしまったベルデにとって
この2日間は只でさえ憂鬱で苦しいだけだった。
NUMBERINGの一人として彼女が蘇った日は12月25日。
奇しくもクリスマス当日。
そしてそれはシーニーもゲールも同様だった。
ロッソも又、聖夜クリスマス・イヴに殺されてしまった一人。
長く収容されていた研究所から
外の世界へと出て来た日も12月25日クリスマス
彼等にとっては因縁の2日間。

「【Memento Mori】の誕生日、だな」
= そうだね。盛大にお祝いしないと =
「その為には、ベルデをとっ捕まえてこんとな」
「彼女に関しては俺に任せてくれ。
 時間にして、そろそろだ」
「えっ? 当てが有るのか、ロッソ?」
「あぁ。彼女が【的場 志穂】であれば間違いなく、な」

相当自信が有るのだろう。
ロッソの笑みには力強さがみなぎっている。

「晋」
「何だ、妙子?」
「迎えに行ってあげてね、【志穂ちゃん】を」
「…勿論だ」
「私は此処で待ってる。和司と一緒に」

自身の膝で眠る愛しい息子に微笑みながら
妙子はそう言ってロッソを送り出す。
嘗ての婚約者としてではない。
古くから付き合いのある幼馴染として。
そして、性別を超えた親友として。

「行ってくる」
「「行ってらっしゃい」」

ロッソが羽織る真っ赤なコート。
それはベルデにと用意した物と色違い。
静かに降り積もる夜の街に
その姿がゆっくりと溶け合う様に消えて行った。

* * * * * *

「さぁ~て、と」

シーニーが突然伸びを始めた。

「どうしたんだ、シーニー?」
「今晩中には帰って来んと思うから
 明日に備えてパーティーの飾り付けでもしよか?」
「今から? 流石に五月蠅くない?
 和司君、寝ちゃってるよ?」
「音立てる様な準備するかいな、こんな深夜に」
「それはそうなんだろうけど……」
「折角のお祭りの日なんやで?
 盛り上がらんと面白ないやん」
「(賛成!)」
「私も、出来る範囲でお手伝いします」

ゲールと妙子が笑顔で賛同する。
やれやれと言いながら
阿佐も悪い気はしなかった。
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