事件ファイル No.5-15

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

あれから1週間が過ぎた。
大晦日に当たるこの日、
ロッソは【Cielo blu in paradiso】を閉め
ベルデと共に或る場所に来ていた。

「此処は……」
「的場家の墓だ」
「じゃあ、お父さん達は此処に?」
「あぁ。一度連れて来たかった」

見上げた彼の横顔は少し悲しげだった。
連れて来たいとは言ったが
その為には自分の正体を
彼女に明かさなければならない。
人知れず、彼は苦悩して来たのだろう。

「今の俺達なら、可能かもしれない」
「…何が?」
「手を、出してくれ」
「……」

ベルデは何も言わずに右手を出した。
ロッソはその手を優しく繋ぐと
精神統一を始めた。
すると、目の前には三人の人影が。

「…お父さん?」
= 志穂…。やっと会えたね =
「お父さん? 本当に?
 お母さんも? お姉ちゃんも?」
= そうよ、志穂。会いたかった… =
= 元気そうで安心したよ、志穂 =
「お父さん、お母さん、お姉ちゃん…。
 御免ね…。御免なさい…。
 私の、私の所為で皆……」
「志穂……」

彼女はやはり、自分の責任だと思い込んでいる。
しかし目の前に立つ彼女の父親は
笑顔で首を横に振った。

= それは違うよ、志穂。
 お前は巻き込まれただけなんだ =
「お父さん…?」
= 気を確り持ちなさい、志穂。
 惑わされてはいけない。
 お前を取り巻く【憎悪】はあまりにも深く、濃い =
「…うん。解ってる」
「……的場さん」
= ありがとう、鷹矢君。
 あの時の【誓い】を、君はちゃんと果たしてくれた。
 志穂をこうして守ってくれてありがとう。
 本当に感謝しているよ =
「俺はこれからも、志穂さんを守り続けます。
 約束します。必ず」
= あぁ。解っているよ =
= 良かったね、志穂!
 お姉ちゃんが言った通りだったでしょ?
 絶対に優しい、素敵な男性ひとだって! =
「お、お姉ちゃんっ?!」
= 舞い上がってたもんね、デートの前日!
 はしゃいじゃってさ。
 だから、お姉ちゃん嬉しいよ。
 こうして二人で来てくれた事 =

的場家族の後ろにもう一人分の影が見える。

= 鷹矢君。君に会わせたい人が居るんだ。
 私達からの、せめてものお礼だよ =
「俺に?」

そう言って、ロッソは息を飲んだ。
的場父の後ろから姿を現したのは
自分の死後、後を追う様に病死した
母親だったからだ。
妙子にその話を聞かされた時から
ロッソはずっと慙愧の念に堪えなかった。

= 晋司…… =
「母さん…。俺、俺は……」
= 何も言わなくても良いよ。
 こうしてお前の顔を見ただけで
 もう、判ってるから =
「…最期迄心配ばかり掛けて、
 本当に…御免。御免な……」

足元の石が水滴に染まる。
ロッソは大粒の涙を流していた。
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