事件ファイル No.5-16

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

= 負けるんじゃないよ、晋司! =

鷹矢母は力強い言葉で彼を励ました。

= 志穂ちゃん、お前が話してくれた通りの
 優しくて可愛い子じゃないの。
 お前がちゃんと守るんだよ。
 誰かに任せたりしたら、承知しないからね =
「する訳ねぇだろ…。俺が守るんだよ。
 もう二度と独りきりになんかさせねぇっ!!」
= …それで良い。
 母さん、ちゃんと聞き届けたからね =

鷹矢母はベルデに視線を合わせた。

= 一寸粗暴な所も有りますけど…
 心根は優しい子なんで、どうぞ宜しくお願いしますね =
「は、はい! わ、私の方こそ宜しくお願いします!!」

まるで見合いの様だ、と思わずロッソは苦笑した。
出来れば、生きている間に叶えたかった。
しかし…再生し、常人を超えた能力を持つ事で
この再会が叶った事を思うと無下にも出来ない。

= 志穂、幸せになりなさい。
 鷹矢君と、そして仲間の皆さんと力を合わせてな =
= 約束よ、志穂! =
= 大丈夫。お母さん達がいつも応援してるから =
= 晋司。決めたんなら目一杯戦いなさい。
 我慢しないで思う存分、暴れちゃいなさい! =
「約束するよ…。私達、絶対に諦めない」
「必ず、幸せを掴み取る」

やがて淡い光となって消えていく四人を見送りながら
ロッソとベルデは握った手に力を込めた。

* * * * * *

その頃、阿佐は水間に呼び出されて
隣町の喫茶店に居た。

「先ずはこれに目を通してくれ」
「これは?」
「鷹矢の殺人事件に関わる資料だよ」
「思い切り【持ち出し禁止】って
 書いてありますけど…」
「俺の許可無く持ち出すなと云う意味だ」
「成程……」

急かされながら、阿佐は改めて資料を見た。
鷹矢が殺害された時の現場写真は初めて見たが
あまりにも酷い殺され方に思わず吐き気をもよおした。

「実行犯は的場一家殺人事件を
 知っていたみたいだ」
「え? そうなんですか?」
「尤も、噂程度だと思うがな。
 的場一家を殺害したのは単独犯と分かっている。
 恐らくはその手口の鮮やかさが噂となり
 輩の口から口へと広がっていったんだろう」
「でも…資料によると、
 実行犯と鷹矢の接点は無いんですよね?」
「捕まえた一部の供述ではあるが、確かに無い」
「でもこの殺害方法は…
 快楽殺人にしてはやり過ぎだし
 それよりも怨恨の方が濃厚ですよね。
 刺し傷だけで、一体何箇所有るんだ?」

水間は静かに珈琲を味わうと
瞳を閉じてボソッと言った。

「主犯は別に居る」
「え?」
「だが、其奴は権力を笠に着て逃げ切った」
「…そんな事が」
「幾らでも居るさ。権力、金。
 それ等で自衛しつつ、暴利を貪る餓鬼共が」

憎々しげに言い放った水間の目が
怒りの色の染まっていた。

「此奴は……」

主犯とされる男の写真を見て阿佐は思わず身震いした。
街の往来で妙子を足蹴にして暴行を働いた
あの男の顔が其処に在ったのだ。
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