厨房で皿洗いをしていると、
不意にロッソが声を掛けて来た。
何事かとベルデが振り返る。
「過ぎちゃったけど…
ちゃんと祝いたいから」
「ロッソ……」
「良いかな?」
「それなら…」
「ん?」
「来月、だったよね?
ロッソのお誕生日」
「…あぁ。4月20日だ」
「じゃあ、一緒にお祝いする?」
「…良いな。それ」
「妙子さんと和司君も呼んでさ!
皆でパーティーしようよ!」
「…二人きりで祝うんじゃねぇのか?」
「それは後で。ね?」
「……」
彼女はそう云う女性だ。
スッカリ頭から抜け落ちてた。
ロッソは苦笑しながらも
そっと後ろからベルデを抱き締めた。
「お前の望みは、俺が全て叶えてやる」
「もぅ…自信家さんなんだから……」
水間さんから見せられた書類が頭から離れない。
鷹矢殺しの主犯がもしあの男であれば
妙子さんと和司君の身が危ない。
奴はきっと、和司君が邪魔なんだろう。
妙子さんが受けた暴行は
和司君を守る為に負ったものかも知れない。
執拗に刺されたあの傷痕の数は
それだけ奴が鷹矢を妬ましく思ってた事の裏返しか。
「ふぅ……」
「(飲む?)」
「あ、ゲール…。ありがとう」
ゲールは淹れ立ての珈琲を持って来ると
笑顔でそれを俺に手渡してくれた。
自身もその隣に座り、珈琲を味わう。
「(どうしたの? 悩み事?)」
「…ゲール。これ、見てくれる?」
俺は水間さんの承諾を得て、
主犯の写真をスマホに撮り直していた。
その画像を彼に見せたのだ。
「(
ゲールの表情が極端に変わった。
普段見せない復讐屋の顔が其処に在る。
「シーニーに確認が取りたいと思って」
「(シーニーに? どうして?)」
「
「!!」
驚いてテーブルを叩き、立ち上がるゲールを
俺は静かに見つめ、頷いた。
「もしそうだとしたら…
妙子さんと和司君が危ない。
それに……」
「(それに?)」
「もし、この男が犯人の一味であったら…
ロッソに会わせるのはかなり危険だ」
「(どうして?)」
「ロッソの怒りに火が点いてしまう」
「(あぁ。そう云う事か)」
ゲールも合点がいったらしい。
NUMBERINGの掟として
自身の復讐の為だけに力を使う事は
殺人許可証所持者だからこそ、余計に。
「(写真、借りても良い?)」
「あぁ。このスマホを持って行って」
「(借りるね)」
ゲールは俺のスマートフォンを受け取ると
急いでシーニーの居る地下室へと駆けて行った。
つくづく、今此処にロッソとベルデが居なくて良かった。
二人で息抜きに買い物に出ると言ってくれたから
俺もゲールやシーニーに打ち明ける事が出来た。