事件ファイル No.6-1

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・後編

「誕生日、さ」

厨房で皿洗いをしていると、
不意にロッソが声を掛けて来た。
何事かとベルデが振り返る。

「過ぎちゃったけど…
 ちゃんと祝いたいから」
「ロッソ……」
「良いかな?」
「それなら…」
「ん?」
「来月、だったよね?
 ロッソのお誕生日」
「…あぁ。4月20日だ」
「じゃあ、一緒にお祝いする?」
「…良いな。それ」
「妙子さんと和司君も呼んでさ!
 皆でパーティーしようよ!」
「…二人きりで祝うんじゃねぇのか?」
「それは後で。ね?」
「……」

彼女はそう云う女性だ。
スッカリ頭から抜け落ちてた。
ロッソは苦笑しながらも
そっと後ろからベルデを抱き締めた。

「お前の望みは、俺が全て叶えてやる」
「もぅ…自信家さんなんだから……」

* * * * * *

水間さんから見せられた書類が頭から離れない。

鷹矢殺しの主犯がもしあの男であれば
妙子さんと和司君の身が危ない。
奴はきっと、和司君が邪魔なんだろう。
妙子さんが受けた暴行は
和司君を守る為に負ったものかも知れない。

執拗に刺されたあの傷痕の数は
それだけ奴が鷹矢を妬ましく思ってた事の裏返しか。

「ふぅ……」
「(飲む?)」
「あ、ゲール…。ありがとう」

ゲールは淹れ立ての珈琲を持って来ると
笑顔でそれを俺に手渡してくれた。
自身もその隣に座り、珈琲を味わう。

「(どうしたの? 悩み事?)」
「…ゲール。これ、見てくれる?」

俺は水間さんの承諾を得て、
主犯の写真をスマホに撮り直していた。
その画像を彼に見せたのだ。

「(此奴コイツ…)」

ゲールの表情が極端に変わった。
普段見せない復讐屋の顔が其処に在る。

「シーニーに確認が取りたいと思って」
「(シーニーに? どうして?)」
此奴コイツは…鷹矢を殺した奴等と関係が有るらしい」
「!!」

驚いてテーブルを叩き、立ち上がるゲールを
俺は静かに見つめ、頷いた。

「もしそうだとしたら…
 妙子さんと和司君が危ない。
 それに……」
「(それに?)」
「もし、この男が犯人の一味であったら…
 ロッソに会わせるのはかなり危険だ」
「(どうして?)」
「ロッソの怒りに火が点いてしまう」
「(あぁ。そう云う事か)」

ゲールも合点がいったらしい。
NUMBERINGの掟として
自身の復讐の為だけに力を使う事は禁忌タブーとされる。
殺人許可証所持者だからこそ、余計に。

「(写真、借りても良い?)」
「あぁ。このスマホを持って行って」
「(借りるね)」

ゲールは俺のスマートフォンを受け取ると
急いでシーニーの居る地下室へと駆けて行った。
つくづく、今此処にロッソとベルデが居なくて良かった。
二人で息抜きに買い物に出ると言ってくれたから
俺もゲールやシーニーに打ち明ける事が出来た。
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