事件ファイル No.5-4

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

その日の深夜。
ロッソはシーニーと共に彼の自室に居た。
深刻な表情を浮かべて数時間。

「流石に拙いな」
「…あぁ」
「幼馴染となると、誤魔化すにも限界がある。
 それに彼女、ベルデの事も勘付いとったぞ」
「そりゃそうだろ。
 的場家の告別式には彼奴アイツアイツも行ったからな」
「23年前の関係者が、ねぇ…」

運命の悪戯、にしては質が悪い。
シーニーはそう、独り言つ。

「そう言えば、彼女…息子が居るんやな。
 誰の子やろ?」
「多分、俺だ」
「はぁ~っ?!」
「たった一回だけどな。
 妙子とヤった事が有る」
「滅茶苦茶高打率やんけ……」
彼奴アイツアイツは孕む事前提で俺を押し倒した訳だし…」
「襲われたんかい、お前が」
「まぁな。結婚出来ないならせめて子供をってな」
「思い込むと怖いな、女って奴は」

シーニーはロッソの横顔を見ながら
それ以上の詮索はしなかった。

「…良ぇ奴やんけ。お前」
「?」
「和司…やったか。あの子の為やろ?
 父親になると決めたん」
「…結果的に、和司を俺と同じ状況に追いやった。
 褒められる事は何も出来てねぇよ」
「お前、そう言えば母子家庭やったな」
「…あぁ」
「結果論やと思うけどな、俺は」
「…そうか?」
「父親になるのが嫌で殺された訳やあるまいし
 今だって和司の事、ほんまに心配しとるやん」
「……」
「良ぇ奴やわ、やっぱお前は」

こうやって過去の自分の話を仲間にするのは
恐らくは初めての事だろう。
だが、二人共抵抗無く自然と昔話を口にしていた。

「まぁ、【Memento Mori】が過去を封印してるのは
 ベルデの精神状態を考慮しての事ってだけやし。
 NUMBERINGの掟なんぞクソ食らえ、やけどな」
「…お前からそれを切り出した時は驚いたよ」
「何でや?」
「お前はもっと冷たい奴だと思ってたからな」
「基本は冷たい奴やで、俺は」

フッと鼻で笑いながらシーニーは
テーブルに置かれたカップを持ち上げ、
冷えた珈琲で喉を潤した。

「理由はお前と同じや。
 俺だって『志穂を守りたい』。
 只、それだけ」
「……」
「ゲールもな」
「…そうだな。俺達は……」

ロッソは無意識に自身のタトゥーを服の上から触れた。
彼等が【Memento Mori】で在る証明。

「さて、マジで対策を練らんと…やな。
 最悪の状況だけは念頭に置かんといかん」
「やはり、そうなるよな」
「出来れば避けたいんやけどさ。
 しかしそろそろ…難しくはなるやろう」
「ベルデも疑っている様子だ。
 どうして俺達が全く過去に干渉しないのかを」
「『忘れてる』、『思い出せへん』に
 疑問を抱いとる感じやからな。
 最近のベルデの言動やと」
「やっぱり、そう思うよな?」
「そりゃなぁ…。
 水間が阿佐を此方に寄越した時
 嫌な予感はしとったんやけど」
「水間の奴、やはりそれが狙いなのか?」
「どうやろ? 偶然の産物かも知れんが」

どちらともなく煙草を取り出し吸い始める。
狭い部屋に紫煙が広がり出した。

「取り敢えず、妙子…やっけ?」
「そうだ。濱嶋 妙子」
「妙子をベルデから無理に引き離さん方が良いな。
 俺等は特に気にしてない格好にして、
 彼女の振る舞いに目を光らせるだけに留めよか」
「それが一番無難だな」
「あぁ。変にベルデを刺激しとうない」

周囲に無関心なシーニーらしからぬ言葉に
ロッソは彼にも人の心が備わっている事を再確認した。
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