事件ファイル No.5-5

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

ベルデと妙子は随分と気が合うらしい。
和司を含めた三人で楽しそうに談笑している姿は
いつも見ている側の心を温かくさせてくれる。

「本当に、妙子さんは鷹矢さんの事が好きなのね」

ベルデは彼女から
生前の鷹矢の事を色々と教えてもらっていた。
勿論、自分が【的場 志穂】だと云う事は
彼女に伝えられないままだが。

「普通に友人として付き合う事も反対されていたから
 ムキになっていた部分も大きかったと思うの」
「反対? 御両親が?」
「えぇ。彼、母子家庭だったから」
「それだけの理由で? そんなのおかしいよ!」
「でしょ? 貴女ならそう言ってくれると思った」

そう言って妙子は微笑んだ。

「きっと、的場さんも同じ事言ってくれたと思うの。
 私達…良い友人になれたのかなぁ~って
 時々考えたりするわ」
「…なれたんじゃないかな?」
「そう思う?」
「お話を聞いてると、何となく…ね」

同じ男性に恋をした者同士。
だけど、いがみ合う感じは不思議としなかった。

「的場さんが亡くなってからの鷹矢は…
 別人の様に冷たくなってしまったわ」

妙子は悲し気にそう言った。

「妙子さん……」
「彼、御通夜とお葬式 どちらも顔を出してね。
 別に付き合いがあった訳でも無いのに…
 的場さんには特別な想いを抱いていたのよね。
 お墓参りもよく行ってたわ。
 私も何度か、その姿を見てたから」
「鷹矢さんが……」
「犯人を許せなかったんだと思う。
 そして、犯人を見付けられない警察にも
 彼は酷く失望してた。
 高校を卒業して、暫くしてからかな。
 『絶対に自力で犯人を見付けて復讐する』って言い出して…」
「……」
「その時の鷹矢の顔…今でも覚えてる。
 見た事も無い様な、ゾッとする程怖い顔をしてた」
「……」
「冗談なんかじゃない。
 本気なんだって、その時に気付いたわ。
 そして…もう誰にも止められないんだって察した」
「そんな…無茶な事を……」
「そうよね。無茶よね。
 本人もそれは解ってたんじゃないかしら」
「鷹矢さん自身が?」
「えぇ…。的場さんが亡くなって…
 彼もその時に死んじゃったのかも知れない。
 彼の心が……」

ベルデの脳裏を過る鷹矢の姿。
それがロッソと不意にシンクロした。
復讐に駆られた鷹矢の姿は
復讐屋として戦うロッソと酷似している。

「妙子さん。
 和司君は…鷹矢さんの子供なの?」
「どうしてそう思ったの?」
「何となくだけど…目元、似てる気がして」
「……凄いわね、ベルデちゃん」
「じゃあ、やっぱり…」
「そう、鷹矢の忘れ形見。
 …恥ずかしい話だけどね。
 私、彼に襲い掛かった事が有るの」
「えっ?!」
「両親の反対もあって、彼と結婚出来ないのは解ってた。
 彼もそんな気が全然無かったみたいだし。
 でも…どうしても諦められなかったの。
 鷹矢との繋がりを持っておきたかった。
 心で繋がれないなら、せめて身体だけでも…って。
 鷹矢には凄く怒られちゃったけどね」

妙子は苦笑を浮かべながら静かに語り出した。
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