事件ファイル No.5-7

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

同時刻。
シーニーの自室。

ホールをベルデと妙子に貸し出し、
ロッソはゲールと共にシーニーの部屋に居た。

「逆切れ婚かいな」

呆れた声でシーニーが話し掛けると
ロッソは苦笑を浮かべていた。

「流石にあれじゃ幾ら何でも妙子が可哀想やわ」
「まぁな。自分でも、あれは無いと思う。
 ちゃんと断るべきだった」
= 妙子さんの事、好きだったの? =

ゲールのストレートな問い掛けに
ロッソは思わず手にした煙草を落とし掛けた。

= ロッソ? =
「察したり、ゲール。
 此奴コイツはな。好きな女以外を側に置いたりせん」
= 良かった! 安心したよ =
「シーニー…。テメェ……」
「事実やろうが。照れんなや」
「……惚れた女は一人だけだ」
「それも解っとる。だからお前は死ぬ迄苦しんだ。
 この一連の出来事を
 的場一家への【裏切り行為】と捉えたからな」
「……」
「お前はあの時、自身の幸せを放棄する生き方を選んだ。
 最期迄、復讐に全てを費やそうとした。
 しかし、妙子との結婚はそれ等の誓いを無にする行為や。
 だから苦しんだ。自分を責め続けた」
「…俺は」
「一途過ぎんねん。お前って奴は」

だからこそ、真相を知ったベルデが心配だと
シーニーは神妙な面持ちで口にした。

「彼女の所為じゃない。
 俺の死は、俺の責任だ」
「勿論そうや。お前だけやない。
 少なくとも、俺はお前と同じ状況やからな」
= 僕は? =
「ゲールは…う~ん。ややこしいな。
 お前は殆どトバッチリに近い訳やし」
= そっか。自分の死の背景って
 誰かに聞かないと判らないよね =
「そりゃな。自分の死後の話なんやし」

話が盛り上がるシーニーとゲールを横目に
ロッソは一人、何かを思案していた。
勿論 ベルデがこれ以上
鷹矢の事情を聞き出さない様にするには
どうすれば良いのか、をだ。
無駄だと判っていながらも
彼女を傷付けたく無いからこそ。
勿論、以前シーニーが話した通り
無理に押さえ付ければそれ相応に反発される。
無理矢理だけは絶対に避けなければならない。

「要はお前の【死】に触れんかったらえぇねん」
「まぁ…そう云う事だ」
「ベルデが聞きたがっとるのは
 幸いにも『生前の鷹矢の様子』やろうし。
 …妙子かって、態々お前の死を
 語りたいとも思えんしなぁ」
「それに期待するしかねぇか……」

ロッソは煙草を静かに吸いながら
或る事にふと気が付いた。

「そういや、阿佐は?」
「お出掛け」
「例の定期報告?」
「そう。水間ちゃんとのデート」
「気持ち悪い事言うな」
「まぁまぁ」
= でも、最近の阿佐は楽しくなさそうだよ? =
「そうなん?」
= うん。『気が重い』って言ってた =
「へぇ~」

反応の薄いシーニーに対し
ゲールはロッソと顔を見合わせた。
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