事件ファイル No.5-9

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・前編

「一杯買えたね、ゲール!」

いつもの買い出し。
今日は荷が多くなるだろうから、と
ベルデはゲールや阿佐に付いて来た。
最近は少しロッソの精神状態が不安定なのか
余り彼女を側に寄せたがらない。
ベルデがそう言っているのだから
「気の所為だ」と言っても無駄だろう。
シーニーの助言もあり、こうやって二人は
彼女の気分転換に付き合っている。

「(最近、味が少し変わった。心配)」
「そうね…。味覚って精神状態に左右されるみたいだし」
「そんなに調子が悪いんだ、ロッソ」
「うん…。私が妙子さんと会う様になってから……」
「嫉妬してるんじゃないかな?」
「ロッソが? 妙子さんに?」
「そうだと思うよ。だって考えて御覧。
 普段からロッソの独占欲、凄まじいよ」
「……そうかなぁ~?」
「寵愛を受けてる側は、判らないかもな…」
「(僕もそう思う)」
「ゲールもなの?
 う~ん…。二人がそう言うなら、そうなのかな?」
「多分そんな所だと思う。
 ロッソって意外と、そう云う所が有ったりするよ。
 子供っぽい所って云うのか」
「何となく解る様な気が…」

そう言い掛け、ベルデは顔を顰めた。

「(ベルデ?)」
「どうしたの、ベルデ?」
「悲鳴が、聞こえる」
「え?」
「この声…妙子さんっ?!
 妙子さんが危ないっ!!」

ベルデは一目散に声の許へと駆け出した。
ゲールと阿佐も互いに頷くと
真っ直ぐに彼女の後を追う。
強化された二人の脚力に劣らない阿佐の走力は
流石、現職の刑事と云った所か。

* * * * * *

妙子は体を張って和司を守っていた。
往来を気にする事無く、男は彼女を足蹴にしている。

「あの男だ…」

ベルデはそう呟き、眉間に皺を寄せた。
彼女達と初めて出会った時、
和司を車道に突き飛ばした男。
チャラチャラとした外見といい
ベルデが最も忌み嫌うタイプの男だ。

「俺が行く」

阿佐はそう言うと迷わず男の前に立ち塞がった。

「止めろ!」
「何だ、お前? 邪魔すんな」
「自分はこう云う者だ」

阿佐は懐から警察手帳を取り出し
男の眼前へ突き出した。
しかし男はそれに動じるどころか
鼻で笑い、彼を莫迦にする。

警察マッポの手帳なんざ怖くねぇよ」
「……」

= ベルデ、何か聞こえる? =

素早く妙子と和司を助け出したゲールが
そっとベルデに問い掛ける。

= あの男、背景がかなり強固なのね。
 警察なんて怖くないって高を括ってる =
= 親が政治家とか、そう云うパターンかも =
= 有り得るわね =

此処にロッソが居なくて良かった、と二人は安堵した。
彼がこの現場を目撃したら
問答無用であの男の息の根を止めてしまうだろう。
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