事件ファイル No.6-17

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・後編

海に沈もうとする夕陽を見つめながら
ロッソは静かにタバコを吸っていた。
この時間、この場所から見える海が好きで
此処に住もうと決めた。
直ぐ自分の意見に賛同してくれた
ベルデの笑顔をいつも思い出す。

「ロッソ」

不意に背後から声がする。
振り向かずとも判る、愛しい女の声。
出来る事であれば、
今はその名以外で呼んで欲しかったが。

「どうした?」
「妙子さんと和司君は自室で休んでるわ」
「気に入ったって?」
「えぇ。和司君、凄く喜んでた。
 『ロッソ兄ちゃんと一緒に住める』って」
「俺はオッサンだっての」
「良いじゃない。若く見えるって事は」

ロッソは照れ臭そうに笑っている。
その笑顔はやはり
NUMBERINGのロッソではなく
鷹矢 晋司の顔だった。

「…これ」

ベルデが恥ずかしそうに差し出した【物】を見て
ロッソの表情が大きく変わった。
驚いた様子で彼女の顔と手元を
何度も視線を往復させていた。

「妙子さんから渡されたの。
 …最期迄、大切に持っていてくれたのね」
「これは…俺の【お守り】だった……」

所々に血液の染みが残ってしまっている。
長年の劣化で黄ばんでいる部分もある。
それでも23年前から鷹矢が死ぬ迄
肌身離さず持っていた一品。
そして、妙子が彼の遺品として
大切に残していた物。

「偶然…なのかな?
 私は、貴方が幸せになれます様にって…
 四葉のクローバーを刺繍したの」
「……」
「今の貴方の殺人許可証と同じ」
「…そうだな」
「あのね、晋司…」
「…何だ?」
「これ、もう一度…受け取って、くれる?」

ベルデはそう言って
それをロッソに差し出した。

昔、やはり夕焼けの眩しかったあの日。
志穂は帰宅途中に不良生徒複数に絡まれ
脅えたまま動けずにいた。
それを偶然見かけた鷹矢が助けに入り
二人が直接会話を交わす切っ掛けとなったのだ。

* * * * * *

「ご、御免なさい…。
 私の所為で、こんな大怪我をさせて……」

志穂はそう言って泣いていた。
肩をまだ小刻みに震わせている。
余程怖かったのだろう。
晋司は腫れた頬を手で擦りながら
目一杯の笑顔を浮かべた。

「大丈夫だよ。
 こんなの慣れてるから平気だって!」
「で、でも……」
「君が気にしなくても良いから。
 俺が好き勝手に暴れただけだし。
 それに……」

コホンっと咳払いをすると
晋司は頬を赤らめてこう言った。

「君を泣かせる奴は、誰だろうが許せねぇ」
「……」

突然の言葉に、志穂を口に手を当てて
そのまま硬直してしまった。
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