事件ファイル No.6-18

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・後編

次の日の朝。
何処かに生徒手帳を落としたらしい晋司は
通学路を一人で何度もウロウロとしていた。
流石に妙子や友人達に知られると格好がつかない。
そう思って捜索を続けていると。

「あの…鷹矢、さん?」

背後から声を掛けられた。
振り返ると其処には自分の天使、
憧れの的場 志穂が一人で立っていた。
いつも連れ立って歩いている友人の姿は無い。

「これ、昨日落とされていたので…」
「へっ? ど、何処で…?」
「私の、住んでるマンションの入り口で…」
「……」

何をやっているんだ。
鷹矢は自分の顔面に拳を入れたい位に
恥ずかしいと感じていた。

「これ、受け取ってもらえますか?」

彼女がそう言って差し出したのは
鷹矢の生徒手帳と真っ白なハンカチ。
綺麗に畳まれたそれには
鮮やかな緑色の刺繍が施されていた。
四葉のクローバーだ。

「御免なさい…。
 もっと気の利いた物があれば良かったんですけど…」
「この刺繍は…?」
「私が…。お裁縫、好きなので……」
「…良いのか? 俺なんかで」

志穂は顔を真っ赤にしながら
何度も首を縦に振っている。
その仕草一つ一つが初めて見るもので
新鮮に、そしていつも以上に可愛らしく映った。

「…ありがとう」

鷹矢はそう言ってハンカチを受け取った。
彼からすれば断る理由が全く無い。
下心が無い訳では無かったが
彼女の真心が本当に嬉しかった。

「…的場さん」
「はい…。え?」
「御免。通学中に友達の声が聞こえて来てて
 名前だけは、前から知ってた」
「あ…そ、そうだったんですね……」

恥ずかしい、と小さく呟く。
そんな表情でさえも愛らしい。

「こ、今度の日曜日さ。
 空いてる。かな?」
「…えっ?」

驚く彼女の顔を見て、
鷹矢は自分が先走った事に気付いた。
かなり強引な事を言っている。
だが、此処迄来て後に退くのは自分らしくない。
事情を知る妙子からは発破を掛けられている。

「もし良かったら、会えないかな…って。
 このハンカチのお礼もしたいし」
「え? でも私…そんな大した事……」

これはお断りの雰囲気だろうか。
もしかすると失恋決定かも知れない。
初恋も呆気無いものだ。
一人意気消沈する鷹矢であったが。

「あ、あの…」

彼女はモジモジしながら言葉を続けた。

「私も…会いたいです。鷹矢さんに」
「的場さん……」
「その…鷹矢さんの御迷惑じゃなかったら…」
「め、迷惑なんてとんでもないっ!!」

鷹矢は興奮して思わず大声を出してしまった。
声の大きさに驚いた志穂だったが
クスッと笑いを零すと笑顔を見せた。

「良かった…。嬉しい……」
「的場さん……」
「今度の日曜日、ですね。
 予定は無いですし、空いてます」
「それじゃ…」
「…はい!」

次の日の日曜日。
互いに会う約束を取り付けた。
それぞれの学校に向かう際
二人はワクワクしながら
心の中で待ち望んでいた。

その日が訪れる事を。
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