事件ファイル No.6-19

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・後編

ロッソとベルデとなった今でも
あの時の事は鮮明に覚えている。
そして…あの頃と同じ様に
今、ベルデ…志穂はもう一度
あの時のハンカチを差し出していた。

「…ありがとう」

ロッソ…鷹矢はそう言ってハンカチを受け取った。
静かにハンカチを握り締めると目を閉じる。
その感触を思い出しているかの様に。

「志穂」

鷹矢は不意にその名を呼んだ。

「今度の日曜日」
「……」
「予定、無かったよな?」
「…うん」
「デート、しようか。23年振りに」
「……晋司」

彼が何を伝えようとしているのかが
志穂には手に取る様に理解出来た。

『もう一度…
 あの日、あの瞬間からやり直そう』

志穂の心に、忘れかけていた炎が灯った。

あの日。
日曜日に彼と会えたら絶対に伝えたかった言葉。

「晋司…。鷹矢、さん…」
「何だ?」
「私、貴方の事…ずっと、ずっと好きでした」
「志穂…?」
「初めて通学路で貴方を見掛けてからずっと…
 毎日貴方の事ばかり考えて
 擦れ違う瞬間が凄く楽しみで…
 でも、貴方には妙子さんが居て…
 この気持ちはもしかすると
 叶わないかも知れないけど、でも…」

其処迄一気に吐き出した瞬間
志穂の目から涙が溢れ出した。

「それでも…この気持ちだけは伝えたかった…。
 貴方には、迷惑かも知れないけど……」
「…迷惑じゃねぇよ」
「……えっ?」
「迷惑なんかじゃねぇよ。
 俺はずっと、23年間…
 その言葉『だけ』を待ってたんだ」

そう言って鷹矢は志穂を強く抱き締めた。
彼の体も震えている。
重なる肌の部分から、彼の涙を感じ取る。

「初めて見てからずっと、
 俺は君の事が忘れられなかった」
「鷹矢さん……」
「声を掛けたかった。
 だけど、君はお嬢様学校に通ってて…
 友人もお高い感じの子ばかりで…
 俺とは住む世界が全然違う。
 そう、何度も諦め掛けてた…」
「そんな…っ! そんな事…っ」
「妙子に怒られたよ。
 そんな中途半端な気持ちで見てるのか?って。
 そうじゃない。そうじゃないんだ。
 きっと、俺は怖かったんだな。
 君に振られるのが……」
「……」
「ざまあねぇよ。
 後悔する位ならいつもみたいに
 当たって砕けりゃ良かったのに…」

鷹矢はそう言うと、彼女の体を少し放した。
涙の跡は有ったが、彼は笑顔だった。

「志穂」
「はい…」
「愛してる。
 俺の最愛の女性は生涯で唯一人、君だけだ。
 俺の初恋で、そして…誰よりも大切な存在」
「私…私も……」
「ずっと傍に居てくれ。
 ずっと、俺の傍に……」
「…これからはずっと、ずっと一緒。
 もう二度と、離れないでね…」
「離れないし、離さないよ。
 君が…」

いや、と小さく鷹矢は否定した。

「【お前】が『嫌だ』と言ってもな」
「絶対に言わないから」

夕陽が優しく二人を照らし出し、沈んでいく。
その灯りに照らされながら
ロッソとベルデは幸せそうに唇を重ねていた。
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