事件ファイル No.7-1

女子大生飛び降り事件・前編

初夏。

暫くは事件らしい事件も無く、穏やかな日常が続いている。
阿佐も水間への定期報告こそはしているが
変化の無い事実を伝えるだけ。
水間からの追及も一切無く、気楽なものだった。

「まぁ、平和なんはぇこっちゃ」

復讐掲示板を眺めながら
呑気に煙草を吹かすシーニーを横目に
阿佐も同意の頷きをしていた。

「掲示板の方に依頼は無いのか?」
「気になるん? やっぱ刑事デカやから?」
「そう云う訳じゃないけど…」
「有ると云えば有るが、しょうもない依頼は無視や。
 下らん痴話喧嘩の逆切れ復讐劇は
 俺等巻き込まずに勝手にやって」
「言い換えれば、今はその程度ばかりなんだ」
「そう云う事ですわ」

シーニーはそう言って笑っている。
思えば、彼は随分と阿佐の前で明るく笑う様になった。
昔は卑屈で冷たい笑みばかり浮かべていた彼が。

「少しは信用されたって事かな?」
「誰が? お前が?」
「うん。まぁ…」
「信用と云うよりもやな。
 お前は嘘吐けへん性格やって判ったから
 警戒する必要が無くなった」
「それだけ?」
「それだけ」
「……そう」

少しは信頼関係が気付けたと思っていた阿佐にとっては
何とも残念なシーニーの回答だった。

* * * * * *

「何してんの?」
「ん? シャワー中」
「誰が?」
「ベルデ」
「一緒に入らないの?」
「!!」

顔を真っ赤に染め上げたロッソは
そのままムッとした顔で此方を睨む。

「今迄だったら、なし崩しに入ってたじゃん」
「今迄は、な…」
「じゃあ、今は何で入んないの?
 妙子さんと同居したから?」
「そう云うのじゃなくて……」
「…あっ、そうか!
 初恋の人だったっけ? 【的場さん】って」
「阿佐っ!!」

ゲールも言ってたな。
こう云う時のロッソは洒落が通じないって。
ズボンの前部分をガチガチにしておいて
よくもまぁ、こんな我慢をするもんだ。
今迄のロッソとのギャップに
正直、俺自身が一番驚いている。

「適当に何処かで発散したら?
 それ、女子に見られたら
 流石に引かれるよ」
「……」

俺が指差した部分を両手で巧く隠すと
ロッソはジットリとした
いやな視線を此方に送って来た。
そんな目で見られても
俺はどうする事も出来ないし
そもそもどうにかしようと云う気さえ無い。

「もう直ぐベルデ、上がって来るんじゃないの?」
「お前も此処から離れろ、阿佐」
「言われなくても、そのつもり」
「…ケッ!」

悪態を吐くその姿勢がまるで高校生だ。
俺は思わず苦笑を漏らすと
其のまま足早に自室へと戻った。
Home INDEX ←Back Next→