事件ファイル No.6-7

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・後編

「シーニー……」

ベルデには聞こえていた。
シーニーの、声にならない悲しみの音が。
【Memento Mori】で最も早く目覚めた男。
それ故に、彼は散々見て来たのだろう。
人間の醜い【ごう】を。

「…解りました」
「妙子?」
「和司には…ハッキリと伝えます。
 この子の父親である鷹矢 晋司の死を。
 そして…」
「……」
「鷹矢がどれ程 和司の誕生を待ち望んでくれていたかを」
「…契約、成立ですな」

シーニーはそう言って静かに笑った。

「妙子…。良いのか?」
「えぇ、晋。…いえ、ロッソ。
 受け入れないとね、私も……」
「…別に【晋】呼びでも良いけどな、俺は」
「でも……」
「和司に聞かれたらこう言えば良い。
 『顔がよく似てる上に、名前迄似ていたから』って」
「それで誤魔化せるの?」
「俺の母親がよく使ってた手だ」

そう言ってロッソは笑みを浮かべた。
何もかも捨て去るのは余りにも悲し過ぎる。
そうならない為に、彼等は戦うのだ。

「もう契約は成立したんやし
 以降はどう呼ぼうが、俺は一切関知せん」
「シーニー?」
「好きに呼び合えば宜しいがな。
 そもそも、俺等はNUMBERINGの組織から脱退してるんやし
 律儀に奴等のローカルルールに従う道理は無いやろ」
「…先程の発言とかな~り矛盾するんですが、シーニー?」
「これも社会勉強やと思い。
 真面目なだけでは世の中渡って行けんで、阿佐」
「…何とでも言えるよな」

阿佐の愚痴に笑い声が上がる。
先程迄の重苦しい空気が嘘の様だ。

「おおきに、妙子さん。
 二人の輝かしい未来への障害物は
 我々【Memento Mori】が責任持って
 排除しますさかい、安心してや」
「シーニーさん…。
 皆さん、宜しくお願いします。
 どうか…鷹矢の無念を晴らしてください」
「勿論!」

答えたのはベルデだった。

「志穂ちゃん…」
「私はロッソに仇を討ってもらった。
 私と、私の家族の仇を。
 だから今度は私の番。そうよね」

意味深にシーニーを見るベルデに対し
彼は力強く頷いた。

「渡邊に関してはベルデに任せるとするわ。
 恐らく奴は自前のNUMBERINGを出してくる。
 そっちはロッソとゲールで処理してくれ」
「解った」
「(了解!)」
「で、阿佐やけど…妙子さん達の護衛な。
 生身の人間の動きを止めるには
 刑事のお前が一番適任やと思う」
「シーニーはどうするんだ?
 又 後方支援?」
「俺はベルデと行動するわ」
「えっ?」
「渡邊には聞きたい事が有るんや。
 殺す前に締め上げる」

その時に見せたシーニーの横顔は
狂気に満ちてもおり、悲し気でもあった。
何を考えているのか、阿佐には理解出来なかったが。

「じゃあシーニーが尋問する迄
 私は逃げない様に見張っておくわ」
「おおきに。頼んだで、ベルデ」
「任せて!」
Home INDEX ←Back Next→