事件ファイル No.6-8

鷹矢 晋司 暴行殺人事件・後編

「そう言えばさ」

襲撃前日。
武器の調整を行っているベルデに対し
俺は声を掛けた。

「何?」
「シーニーが現場に顔を出すって
 多分、初めてじゃない?」
「阿佐が【Memento Mori】に加入してからは初めて」
「だよな。シーニーが戦ってる姿は見た事が無い」
「面倒臭がり屋さんだから、シーニーは」
「そうなの?」
「元々戦場に出たがらない人よ。昔から」
「まぁ…シーニーは軍師とか参謀タイプだもんな。
 前線に出てくる方が変と言えば変か」

そんな彼が、敢えて最前線に出ると云う意味。
彼は渡邊から何を聞き出そうとしてるのだろうか。

「シーニーは何を考えてるか判らない人だけど」

ベルデはそう言って微笑んでいる。

「私達の為にならない事だけは絶対にしない」
「…信じてるんだな、彼の事」
「家族だからね」
「そっか……」

彼等【Memento Mori】にとっては、仲間がそのまま家族なんだ。
世界でたった四人だけ。
この先も、彼等には気が遠くなる位長い戦いが続くのだ。

「それを思うと、人類って短命だよな」
「?」
「そのクセに我儘で好戦的で…」
「阿佐は人間が嫌いなの?」
「いや、好きなんだよ。
 好きだからこそ、偶にこう云う人種が出てくると
 虚しくなると云うか、腹立たしいと云うか」
「人間が好きだから、刑事になったの?」
「そうだね。そうだと思う」

警察官の家系に生まれ育ったから
当然、自分も刑事になると信じて疑わなかった。
だけど実際にこうして刑事になってみると
改めて色々と考えさせられる。

「正直に話すとね」

ベルデはそう言ってはにかんだ笑みを見せた。

「私、人類とか世界とか言われても
 話が大き過ぎてよく解らないの」
「そりゃそうだよな。
 いきなりそんな事言われても困るよ」
「うん。この間迄、普通の女子高生だったんだし。
 だから戦う時はこう思ってるの」
「どんな事?」
「私の大切な人達の笑顔を守りたい…って」
「…素敵な理由だね」
「でしょ?」

成程。ロッソ…鷹矢が惚れ抜く訳だ。
この笑顔でこっちを見られたら
確かにドキドキしてしまう。
この子がまだ15歳であると云うのも解る気がする。
これが…【的場 志穂】と云う名の女の子の姿なんだと。

「阿佐。妙子さんと和司君の事をお願いね」
「勿論。絶対に守り抜くよ」
「信じてるからね!」

彼女はそう言うと、俺の左頬に軽くキスをした。
意図しない行為に俺は大慌てとなり
手にしていたニューナンブM60を派手に落とした。

「あらら…」
「ご、御免……」
「何やってんだ、お前?」

背後からロッソの声を聞き、背中が大きく跳ねた。
まさか今の、見られて無かっただろうな…?

「あぁ、阿佐。お前知らないだろうから言うけど」
「はい……」
「志穂は海外で暮らしてた経験有るから。
 頬のキスは挨拶程度だぞ」
「……はい」

やっぱり見てたのか。
しかし命拾いした。
流石に嫉妬に駆られたロッソの手で
殺されたくは無いな。
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